米国・メキシコの国境は、両国の極めて大きな経済格差が如実に判るが、実はそれぞれの側に持てる者と持たざる者がおり、グローバル化した経済の一形態として、マキラドーラという保税加工貿易工場群があって日本とも身近な存在である。
本書は、現代アメリカ文学を講じる大学教授による米国に近いメキシコの国境地帯紀行。全編に米国のメキシコ系詩人による代表的なチカーノ詩をちりばめ、国境地帯の歴史・文化とともにその解説により、領域の境界としての国境ということだけではなく、言語、民族意識、ジェンダーなどによる境界も意味するといわんとしていることが判ってくるのだが、文学・文化論議よりも、著者が旅先で出会った様々な人たちとの会話や国境の町の情景描写は、読む者をこの辺りの町から町へと旅をしている気分にさせる。
(思潮社334頁2007年10月2500円+税)