人間の暮らし方、文明のあり方や歴史も環境の影響を受ける。環境の制約の中でしか生きられないこの地球を、人類の歴史、環境と文明、文化、経済、資源、食、社会、病気などを骨格に解説した世界地理シリーズ。これまでの総合地理書とは異なり、歴史・考古学者が編集担当に入り、先スペイン期古代文明史、植民地時代史、近現代史、地理学、文化人類学、政治学、経済学、国際関係論、地域研究などの学者を動員した、多岐にわたる項目構成になっている。しかも、環境、開発、紛争、アイデンティティ、地域間交流などに絞りこんで中南部アメリカを見ていくことで、ラテン・アメリカ社会の特徴を浮き出させている。
「総説」では、地質・地形、気候、植生、土壌などを地下資源と農牧林産物を中心に見た上で、開発問題の多面性、統計データによる社会の特質を明らかにしている。「中部アメリカ」では、先スペイン期の環境利用と自然観、文化から始まり、植民地時代以降の開発と環境、農村と社会問題、民主化過程、経済成長と貧困、文化的アイデンティティ、アフリカ系文化の影響を取り上げている。「南アメリカ」では、先スペイン期の環境利用とその後の各地での環境と開発、スペイン人の侵略から今日に至るまでの国家と民衆、国際関係を解説している。
大判で大部の本だが、各項目毎に読んでもそれぞれに内容の濃い解説が続いていて、読み応えがある。是非座右に置いて時々紐どきたい有用な一冊だが、個人で購入するには価格が高いのが難である。
(朝倉書店 473頁 2007年7月 18,000円+税)
〔『ラテンアメリカ時報』2008年春号(No.1382)より〕