住友商事で長くメキシコで自動車産業等に関わり定年を迎えた著者に、官民人事交流の一環で駐エルサルバドル大使にと声が掛かる。皇居での特命全権大使の認証式を経て赴任、大統領への信任状奉呈後いよいよ大使としての活動が始まる。政権の大臣や各国外交団、在留邦人との交流、様々な行事へ積極的に参加し、大使館の年間最大のイベントである天皇誕生日祝賀レセプションを催し、パブリック・ディプロマシー(広報文化外交)と呼ばれる日本文化紹介活動、公邸での懐石料理での会食の意義を実感する。一方、大使館の組織と日常の仕事、民間出身者から見れば改善点が多々ある仕事ぶりについても率直に綴っている。エルサルバドルは政権交代によって中南米で最も若いブケレ大統領が就任したが、その後台湾との断交があり、経済政策は理想は高いが実現性が乏しく、大統領府が官僚組織から権限・業務を取り上げた一環で外務省と新設の国際協力機構と間で混乱する国際協力の現場の状況下で、開発協力の実現、日本が112億円のODAをつぎ込みながら有効活用されていないラ・ウニオン港を「ドライキャナル構想」による活性化する策、エルサルバドルの発展の鍵は産業振興にあるとしての施策の提起など、奮闘した数々の事例を挙げている。しかし、2020年のCOVID-19の世界的な蔓延で3月以降外出禁止令が出て外出もままならぬうちに9月に帰朝が発令され、離任時の勲章授与式の機会に大統領に直接ラ・ウニオン港の「ドライキャナル構想」を説明したのを最後に3年半の任務を終え離任した。
民間企業出身者ならではの目で大使館の仕事ぶり、外交とは何かなどを率直に紹介しており、「大使の仕事」を知る上でも一読に値する。
〔桜井 敏浩〕
(集英社インターナショナル 2022年12月 255頁 920円+税 ISBN978-4-7976-8115-4 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2022/23年冬号(No.1441)より〕