1851年に米国海軍大臣から「アマゾン河上流ならびにペルー領内支流に関する航行の可能性にとどまらず社会・産業の現状、人口、産物・交易品、気候、土壌等の実情、耕作の可能性、未開発商業資源の情報収集」を命ぜられたハーンドン海軍大尉とギボン見習士官は、前者がペルーのリマからアンデス東側のセロ・デ・パスコに向かいウアヤガ川を下ってアマゾン河本流に至り、後者はクスコからボリビアのラパス、コチャバンバを経てマドレ・デ・ディオス川からアマゾン河本流を下ってリオ・ネグロ川の合流地点のバーラで落ち合い、河口のベレンから帰国するというルートで調査に向かった。本書の原典は上巻をハーンドンが、下巻をギボンが執筆し1854年に米国連邦印刷局から出版された1000頁余、図版も100葉を超える大部なものだが、米国でも1952年に上巻のダイジェスト版が発行されたのみだったものを、東京大学でアンデスやブラジル等南米調査を行っていた訳者が原典を入手し、大林太良助手の全巻の抄訳を校閲してまとめた画期的な探検記の紹介であり、1977年に同じ出版社から出版された全集の復刊である。
世界の多くの大河川の水源地調査が河口から遡って行われたのに対し、6200kmにも及ぶアマゾン河を反対の経路から行った70年前の探検の記録だが、各地の先住民の風俗、習慣や産物なども生き生きと紹介していて、現代においても一読の価値がある。
〔桜井 敏浩〕
(泉 靖一訳 河出書房新社 2022年11月 294頁 2,400円+税 ISBN978-4-3097-1186-3)
〔『ラテンアメリカ時報』 2022/23年冬号(No.1441)より〕