著者は、ブラジルに渡航後、放送、レコード業界に入り、その後在サンパウロ総領事館の広報文化担当として25年勤め上げた。その間、多くのミュージシャンと親交を結び、ボサ・ノーヴァの黎明期、誕生、発展のあらゆる現場にいて、その本質、歴史を見てきた。
本書は著者が選び抜いた35曲のそれぞれにブラジル語歌詞(コード付き)に日本語訳を付け、曲の成り立ち、作詞作曲者についての解説、その曲に関わる思い出や出来事などの補遺・研究を付けてある。
誰でも知っている「イパネマの娘」*やフランス映画『黒いオルフェ』の主題歌「カーニバルの朝」などをはじめとする名曲の対訳と解説は、パラパラと拾い読みしても楽しく、特にポルトガル語を学んでいる人には堪えられないだろう。写真や当時の新聞報道、似顔絵、それに人名索引もあり、日本でも愛好者が少なくないボサ・ノーヴァが、最適の人に紹介されたことは喜ばしい。
(中央アート出版社271頁2006年2月3000円+税)
* 蛇足−この曲が、リオデジャネイロのイパネマ海岸にあるバ
ーの常連ですでに名声があったトム・ジョビンとヴィニシウ
ス・デ・モラエスが、いつも前を通り過ぎる「サンバのスィ
ングのような歩き方」をしてする」十代後半の美少女に惚れ
て作詞・作曲したという誕生話はよく知られているが、後日
既婚者であるトムが彼女を呼び出して求婚して振られたと
か、この曲の世界的大ヒットを口火にしたように、不動産業
者が当時すでに発展の余地がなくなっていたコパカバーナ海
岸に代わって、イパネマ海岸の土地価格を吊り上げたという
裏話も書かれている。