『新世界の悪魔 —カトリック・ミッションとアンデス先住民宗教』 谷口 智子 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『新世界の悪魔 —カトリック・ミッションとアンデス先住民宗教』 谷口 智子


スペインにより大々的に始まった南米、アフリカ、アジア等世界各地の植民地化は、西欧中心の「選民」思想によって支配地の住民に福音と繁栄をもたらす“救済”であるとのイデオロギー的装いをまとって、被征服者の宗教、文明を否定し、抑圧・疎外するものだったが、現在もなおその思想は隠然と続いている。

ローマ・カトリック教会による全世界への福音伝道を旗印に掲げたピサロに征服されたペルーでも、偶像崇拝、魔術、迷信、悪魔崇拝と決めつけられた先住民の宗教は過酷な弾圧を受け迫害されたが、それは征服者による支配と植民地化をやり易く、より徹底するための手段だったのである。

著者は膨大な歴史文献に当たり(実に多くの参考文献が巻末に挙げられている)、ペルーにおける偶像崇拝撲滅運動の歴史、インディオの治療師ファン・バスケスを魔術師とした迫害、植民地支配に都合のよいカトリック改宗への容易にするために採られた先住民の都市化・集村化、祖先神を悪魔とすることの意味と先住民の抵抗を、いくつもの事例を挙げて分析している。すぐれた政治、社会構造をもちながら、比較的短時間でスペインの統治に屈服させられた手法を解析しているが、それにもかかわらずその後も先住民の間で根強く残る伝統宗教や慣習とキリスト教との相克がよく理解できる。一読を勧めたい興味深い研究書である。

(大学教育出版 192頁2007年12月3100円+税)