スペイン、ポルトガルによる南米の征服、植民地化のそもそもの動機には黄金郷(エルドラド)伝説が関わっているのだが、これまで両国に続く覇権国家である英国はギアナとカリブ海の島嶼を除くと南米での植民地確保を謀らなかったといわれてきた。しかし、近代におけるデフォーの『ロビンソン・クルーソー』は、実はベネズエラのオリノコ河口の物語であって自身もオリノコ川殖民計画に関わっていたのであり、コナン・ドイルの『失われた世界』の舞台になったギアナ高地の探検や、さらにサー・ウォルター・ローリー等によるオリノコ川遠征などは、いずれもベネズエラの黄金地帯を狙う英国の領土的野心によるものであって、この地をめぐるスペインに対する英国の強い帝国主義的野心が300年にわたって続いたことを明らかにしている。
コロンブスの航海の本質、カリブ海沿岸半島や島嶼での真珠をめぐる狂騒、ペルーのインカ文明やコロンビアのエルドラド伝説がやがてオリノコ川にも黄金があるとの噂を流布し、英国、フランス等欧州の国々によりその奥地にあるギアナ高地とともに探検帝国主義競争が果敢に行われ、20 世紀以降にはモンロー主義を標榜した米国も加わって、南米北部の熾烈な覇権争いがあったこと、この黄金探しは今も続いていて、その精錬過程で使われる水銀汚染や金採掘人と鉱区権をもった外資や先住民との係争などを、数々の事例、エピソードにより明らかにして興味深い。
(中央公論社(中公新書) 2008年9月 282頁 940円+税 ISBN978-4-1210-1964-6)
『ラテンアメリカ時報』2008/9年冬号(No.1385)より