『街と犬たち』 バルガズ・ジョサ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『街と犬たち』 バルガズ・ジョサ


1943年に創設されたペルーの首都リマにある、日本の高校に相当する全寮制のレオンシオ・プラド軍人学校は、必ずしも軍人の養成だけを目的としたものではないが学費不要であることから貧困家庭の男子や規律を重んじることから中産階級家庭からの子弟も入学しており、後にノーベル文学賞を受賞することになったジョサ自身も2年間在籍した経験をもつ。

1963年にスペインで出版された最初の長編小説である本書は、校外の「街」の内側に「犬たち」の校内での出来事の挿話が場所と時期を交差しながら語られていく。そこは軍隊式の厳しい訓練と規律を課せられた学校生活の中での、上級生の新入生たちへのハラスメントの洗礼、供与備品の盗難、出身階層の違いによる差別などは、権威主義的学校での「ペルーの人種的・地域的多様性的・経済的差異の衝突に起因」する恐ろしいペルーの暴力的社会の縮図であったが、ジョサはここでの体験を肯定的に捉え、作家を志す原体験になったことは著者自身が認めているという。

〔桜井 敏浩〕

(寺尾隆吉訳 光文社(古典新訳文庫) 2022年6月 678頁 1,540円+税 ISBN978-4-334-75460-0 )