『「もうひとつの失われた10 年」を超えて—原点としてのラテン・アメリカ』 佐野 誠 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『「もうひとつの失われた10 年」を超えて—原点としてのラテン・アメリカ』 佐野 誠


日本はバブル経済収束の経済金融政策の誤りから生じた1990 年代の失われた10 年に続いて、1980 年代以来の経済自由化、規制緩和、「小さな政府」推進という構造改革によりさらに失われた10 年を過ごしつつあるが、こういった問題の究極の原点は1970 年代以降のラテンアメリカが経験してきたことにみられるとの認識を著者はもつ。

構造改革は何をもたらしたか?という観点から、新自由主義改革より大量失業を生じ雇用対策に追われたアルゼンチン、グローバリゼーションの荒波に翻弄されたフジモリ政権下での小零細企業の経験を、現地調査による事例をまじえて分析している。さらに新自由主義とポピュリズム、ブラジルのレアル・プランに見られる「社会自由主義」の開発パラダイムを比較分析した後、ラテンアメリカからアジアに至るまで広く適用されたIMF モデルを批判し、1970 年から90 年にかけて主要国で実施された労働改革−雇用の柔軟化の理論と現実に近年のラテンアメリカの左傾化の一因を見、経済自由化と通貨・金融政策による資本流入のマクロ経済への負の効果までを解析し、新自由主義とその補正に因る「政治的景気循環」サイクルを批判している。

前書『ラテン・アメリカは警告する「 失われた10 年」を超えて —ラテン・アメリカの教訓』(内橋克人・佐野誠新評論 2005 年)に続くもので、新自由主義サイクルの罠にはまり「低開発」社会への道を迷走する日本や先進工業地域と、膨大な農村の貧困地域を抱える中国のブラジル化、そしてアジアの格差拡大など、これら東アジアの「ラテンアメリカ化」を警告する。

(新評論 2009年2月 299頁 3100円+税)

『ラテンアメリカ時報』2009年春号(No.1386)より