ブラジルへの1908年の最初の笠戸丸移民の4割は沖縄県出身者であり、現在日系人の1割を沖縄系が占めるブラジルの日系社会には、ポルトガル語、日本語、琉球語のバリエーションのダイナミックな言語接触があり、またアイデンティティの問題にも錯綜や軋轢が見られる。
現地語の中での生活を始めた移民は、母語日本語(沖縄のウチナと沖縄の人がいう日本本土のヤマトゥグチ)にポルトガル語の単語を混ぜる独特のコロニア語が広まる。この「言語」をめぐる移民史、沖縄系移民の言語状況、日系移民社会での日本語観を概観し、言語調査の実施と談話資料の収集によって見えてきた日系社会における言語の実態からその特徴を明らかにし、これに言語生活調査にもとづく日系と沖縄系移民社会の談話の実例を紹介している(音声資料のDVDが付いている)。
本書は、海外移民社会における日本語の実態を知らしめるとともに、単一言語で均質な言語共同体を前提とする日本語観を相対化させ、日本語・国語問題をあらためて考えさせてくれる、実証による示唆に富んだ研究論文集である。
(工藤 真由美、森 幸一、山東 功、李 吉鎔、中東 靖恵ひつじ書房2009年6月447頁8000円+税)