キューバの音楽レベルが高いことはつと知られている。本稿紹介者も7年前にキューバを旅行した際に地方の小さな田舎町で昼食を取ったレストランに現れたトリオの歌声に驚愕した思い出がある。日本に連れてくれば劇場で十分通用する歌唱力と、同行のミュージシャンが絶賛していたが、かつてドキュメンタリー映画で世界的にもて囃されたブエナビスタ・ソシアル・クラブもそうだろうが、キューバにはこの程度の歌い手は沢山いるのだろう。
本書は、サックス奏者のPedro Antonio Valle Molerio へのインタビューを、自身がラテン音楽の演奏活動をし、音楽やビジネス関係を中心に執筆活動をしている共著者と訳者が取り纏めたものである。ペドロは弟4人とともに、国内はもとよりラテンアメリカ諸国で活躍するトップ・ミュージシャン一家で、父母の思い出、ハバナに出てきてクラリネットと出会い、軍楽隊に入隊し独学でサックスの勉強を始め、除隊後プロの音楽家になり、やがて兄弟でバンドを結成して次第にラジオ番組で注目されるようになって、海外公演を含めあちこちから声がかかるようなるまでの半生記だが、その兄弟バンドYumuri y sus Hermanosは日本へも来演しサルサブームの基を造ったといわれる。
随所にキューバの音楽事情やカリブのリズムについてのコラムがあり、巻末にはペドロの音楽観のほか、楽器の解説や代表的なキューバ音楽CDの紹介、参考図書リストも収録されている。
(ペドロ・バージェ、大金とおる、吉野ゆき子訳ヤマハミュージックメディア2009年10月 271頁2000円+税)