『グアテマラ伝説集』 M. A.アストゥリアス - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『グアテマラ伝説集』  M. A.アストゥリアス


20世紀前半に狭い地域性を脱し世界文学の一角に進出した現代ラテンアメリカ文学の源泉となった作家といえば、アルゼンチンのボルヘスとグアテマラが生んだノーベル賞作家ミゲル・アンヘル・アストゥリアス(1899〜1974年)が挙げられよう。インディオの血を引く父とメスティソの母との間に生まれた彼は、幼児に地方に住んでインディオたちと交わり、後に軍事政権の不興を買って欧州に亡命し、パリのソルボンヌ大学で古代メソアメリカの宗教、文化の研究に打ち込み、マヤ=キチェー族の創世神話である『ポポル・ヴフ』(邦訳 林屋永吉訳 中公文庫 2001年)とマヤ=カクチケル族の『シャヒル年代記』のフランス語版をスペイン語に訳している。アルトゥリアスは、代表作といわれている『大統領閣下』(1946年。邦訳『世界の文学19』 集英社1990年)など、グアテマラの独裁政治、バナナ生産を通じてグアテマラを牛耳った米国資本ユナイテッド・フルーツの搾取と横暴、米国が支援した反共クーデタなどを描いた一連の作品を書く一方で、幼少の頃から親しんできたインディオの物語と古代マヤの研究を融合した「インディヘニスタ文学」の作品を発表している。

本書原本は1930年に出版され、2つの散文詩的小品と戯曲形式の古代マヤ神話に基づいた伝説、スペインの植民地下での伝説の7編から成る。グアテマラの民族アイデンティティとしてばかりでなく、ラテンアメリカの民衆の伝統意識に形を与えた作品といわれ、ラテンアメリカ文学者に影響を与えた。1977年発行の『ラテンアメリカ文学叢書4』(国書刊行会)をあらためて文庫化したものである。

(牛島信明訳岩波書店(文庫)2009年12月282頁720円+税)