執筆者:深沢正雪(ブラジル日報編集長)
この記事は、ブラジル日報WEB版の2023年3月14日付けのコラムに掲載されたものを、同紙の許可を得て転載させていただいたものです。
日系ブラジル人の評価と特徴を聞く
質問1「日系ブラジル人というのは、どういう人たちですか? 教えてください」
回答「日系ブラジル人は、日本からブラジルに移民した人々やその子孫のことを指します。日本からブラジルに移民した最初のグループは、1908年にやってきた人々で、その後も1920年代から1940年代にかけて多くの日本人がブラジルに移民しました。
日系ブラジル人は、日本文化とブラジル文化の両方の影響を受けており、独自の文化を持っています。彼らは一般的に、日本語とポルトガル語を話し、ブラジル社会において多様な分野で活躍しています。例えば、日系ブラジル人は、経済、芸術、スポーツ、政治、医療などの分野で貢献しています。
また、日系ブラジル人は、ブラジルにおいて非常に大きなコミュニティを形成しており、日本との交流や日本文化の普及にも力を入れています。多くの日系ブラジル人は、日本にルーツを持ち、日本との関係を大切にしています。
日系ブラジル人は、ブラジル社会において重要な役割を果たしており、その多様な文化的、言語的、経済的背景は、ブラジル社会の多様性を反映しています」
質問2「日系ブラジル人の特徴はなんですか?」
回答「日系ブラジル人の特徴は以下のようなものが挙げられます。
労働力としての働きぶりの良さ:多くの日系ブラジル人は、先祖が日本から移民してきた当初から農業や工業などの分野で働き者として知られています。そのため、労働力としての信頼性が高く、努力家であると評価されることが多いです。
家族・コミュニティ意識:日系ブラジル人は、家族やコミュニティとの結びつきが強く、家族を大切にすることが特徴的です。また、ブラジルにおいては、日本文化や日本語を共有するコミュニティが多数存在し、その中で日本文化を守り続けることも重要視されています。
多文化共生の実践:日系ブラジル人は、ブラジルにおいて多文化共生の実践をしてきたことでも知られています。ブラジル社会において多様な文化や民族が共存する中で、日系ブラジル人は自らのルーツとブラジル社会との融合を模索し、多文化共生を実現することに努めてきました。
教育への重視:日系ブラジル人は、教育への重視が高く、多くの人々が高等教育を受けることを目指しています。また、ブラジルにおける日本語教育の普及にも力を入れており、多くの日本語学校が設立されています。
節約や倹約の意識:多くの日系ブラジル人は、節約や倹約の意識が高く、家計を管理する上でも重要視されます。これは、移民時代において生活が苦しかったために、家計のやりくりについて学び、継承されてきたものです」
チャットGPT普及の恐るべき早さ
サラサラと数秒でこの二つの回答を書き上げたのが、誰だか分かるだろうか。日本の大学生とか研究者ではない。いま話題の人口知能(AI)「チャットGPT」( chat.openai.com)だ。
1問目に関しては、「1920年代から40年代にかけて」が移住のピーク〝移民の団塊世代〟であったこと、「日系ブラジル人は独自の文化を持っている」ことなどの要点を抑えた記述だと感心した。
2問目に関しても「日系ブラジル人は自らのルーツとブラジル社会との融合を模索し、多文化共生を実現することに努めてきた」などの記述は実にすんなり読める。「移民時代において生活が苦しかったために、家計のやりくりについて学び、継承されてきた」から節約や倹約の意識が高いという点も納得だ。
これは米国カリフォルニア州サンフランシスコに所在するスタートアップ企業OpenAI社が、昨年11月に公開したAIだ。誰でも無料で使える。
投資銀行UBSの調査によると、チャットGPTはサービス開始からわずか2カ月後の1月にアクティブユーザー(ある期間のうちに1回以上利用があったユーザー)1億人を獲得し、史上最も急速に成長したデジタルサービスになった。TikTokが月間ユーザー数1億人に達するまでには9カ月、インスタは2年半かかった。パソコン、ウインドウズ、セルラー、SNSに継ぐような、次の20年を左右するテクノロジーかもしれない。
政治家などがさっそく利用を開始
サンタカタリーナ州ブルメナウ市サイト(1)によれば、同市選出のマテウス・カドリン州議は早速、このAIの助けを借りて統合医療システム(SUS)の医薬品在庫の透明性を促進する法案を作成した。同州議は、人工知能を利用して作成する国内最初の法案だと表明。後に弁護士によって審査されたが、変更は行われなかった。
一方、カナルテッキ9日付(2)は、《詐欺師がチャットGPTを使用してダイレクトメッセージ(DM)のテキストを補強している》と報じた。
DMは、ツイッターやインスタグラム、フェイスブックなどのSNSの一機能で、特定の相手やグループ内だけでメッセージを送受信できる。通常の投稿やつぶやきと違い、不特定多数の人に見られたくない内容はDMで送る。近年の突発的な犯罪や詐欺の多くは、ネットがコンタクトのきっかけとなって発生し、DMで連絡を取り始めることが多い。
普通はやり取りしているうちに「何かおかしい」と気付く。だが、同記事いわく《チャットGPTの人工知能などのツールは、詐欺師がテキストを改善するのに役立っている。詐欺師は、スペルや文法の誤りを修正できるため、フィッシングなどの不正なメッセージを特定することがより困難になっている》とある。
AIが返す模範解答
質問3「日系ブラジル人の若者がもっと日本語学習に興味を持つようにするには、どんなことをすればいいですか?」
回答「日系ブラジル人の若者がもっと日本語学習に興味を持つようにするためには、以下のような取り組みが考えられます。
日本文化や日本語に触れる機会の提供:例えば、日本文化や日本語に関する映画鑑賞会や書道ワークショップ、日本語学習アプリの紹介など、日本語学習に興味を持つきっかけを提供します。
日本語学習の必要性の説明:若者に日本語ができることのメリットを説明し、将来のキャリアにおいても役立つことを伝えます。
日本語学習の楽しさを伝える:日本語学習は楽しいものであると伝え、学習が苦手な人でも楽しみながら学べるような環境を整備します。
日本語学習に必要な環境の整備:日本語教師の確保や、日本語教室の設置、日本語学習アプリの提供など、日本語学習に必要な環境を整備します。
日本語学習に関連性のあるイベントの開催:例えば、日本語能力試験(JLPT)の模擬試験や、日本語スピーチコンテストなど、日本語学習に関連したイベントを企画し、若者に参加を呼びかけます。
以上のようなアプローチを取り入れることで、日系ブラジル人の若者が日本語学習に興味を持ち、積極的に学習することができる可能性が高まります」
実に模範的な回答だ。内容的に新しいものはないが、奇異でもない。だが、それが数秒で書下ろされるという事実には驚く。
質問4「日系ブラジル人の若者が、もっと日系団体の活動に積極参加するようにするためには、どんなことをする必要がありますか?」
回答「日系ブラジル人の若者が日系団体の活動に積極的に参加するためには、以下のような取り組みが考えられます。
ユース(若者)向けのイベントやプログラムの実施:若者が興味を持ちそうなトピックやアクティビティを取り入れたイベントやプログラムを実施し、若者に参加を呼びかけます。
ソーシャルメディアを活用した情報発信:若者が利用するソーシャルメディアを活用し、日系団体の活動やイベントの情報を発信します。
イベントやプログラムの企画に若者を参加させる:若者に企画や運営に参加してもらい、彼らのアイデアや意見を取り入れたイベントやプログラムを実施します。
若者向けのコミュニケーション手段の整備:若者が意見を出しやすいような環境を整備し、彼らの声を聞き、アクションを起こします。
若者に関連性のある活動を行う:例えば、日系ブラジル人の文化や歴史に関する講演会やワークショップ、スポーツ大会や音楽祭など、若者が興味を持ちそうな活動を企画します。
以上のようなアプローチを取り入れることで、日系ブラジル人の若者が日系団体の活動に積極的に参加することができる可能性が高まります」
地方文協、県人会など会員の高齢化に悩む日系団体にとって、参考になるアドバイスになっているだろうか。
AIを訓練するのは南半球の低賃金労働者
AIのイメージ図
このようなAIが、高度な文章能力を持つようになった背景には、南半球の低賃金労働者の存在があるとBBCブラジル《ChatGPTのような人工知能プログラムを推進している貧しい国の何千人もの労働者》(3)が報じている。
AIは、インターネットから取得した内容を主な情報源として使用する。だが玉石混交の情報の海の中で、どうやって中身を見分けるのか?
チャットGPTのプログラムには約1750億の「パラメーター」が組み込まれており、「どの場合はどう判断する」というパターンが複雑に組み合わされて、文章という形に結実する。つまり、脳みそ部分は「パラメーター」にある。
このパラメーターを入力するのが、多くの場合、南半球の貧しい国にある大規模テクノロジー企業の下請け業者によって集められた「ラベラー」と呼ばれる低賃金労働者で、退屈なタスク(仕事)を延々と実行する。数千人がよってたかって一つのAIシステムをトレーニングする。同記事によれば、チャットGPTのトレーニングのために雇った「ラベラー」の多くは時給1・32ドルから2ドル(約10レアル)だ。
シリコンバレーのテクノロジー企業の多くは米国サンフランシスコに本拠を置くSama社を通じてデータ入力を外部委託している。OpenAI社の場合はケニアの労働者が雇われた。Samaは他にもグーグルやメタのためにウガンダ、インドなどの低所得層のラベラーを雇っている。同社は「5万人以上の人々を貧困から救い出した」と主張している。
この賃金が安すぎるという批判が人権団体などから出ているが、同社は「これはコロンビアの最低給与の1・8倍に相当する」と反論する。もう一つの問題は、精神的健康への影響だ。これらの労働者の仕事の一つは、どの情報が公開に適していないかをAIプログラムに教えることだ。インターネットの最も暗い隅を掘り下げ、そこにある暴力的で不吉でひねくれた素材にラベルを付けて、機械にそれを無視するように指示する。そのような動画や情報ばかりに接していると精神的に病んでくる労働者が出てくるのもムリはない。
AIが語る奇妙な水野龍の姿
このAIは奇妙な〝創作〟もする。「水野龍について教えてください」と質問してみた。
回答「水野龍(みずの りゅう)は、日本からブラジルに移住した日系二世の社会運動家であり、ジャーナリストでもありました。1939年にサンパウロで生まれ、幼少期に家族とともにブラジルに移住しました。
彼は、1960年代にブラジルで起こった反体制的な社会運動に積極的に参加し、左派運動や人権活動に取り組んでいました。また、彼は「ジャパン・サルバージョン(日本の救世主)」として、ブラジルの日系人コミュニティで人気がありました。
1970年代には、日本の民主主義を支持し、日本人学生運動や市民運動の活動家としても知られていました。彼は、1980年代にブラジル政府から国家保安法違反の容疑で逮捕され、拷問を受けましたが、釈放後は再び社会運動に復帰し、日本語新聞「サンパウロ新報」の編集者として活動しました。
彼は、日本とブラジルの両方の文化に精通しており、多文化主義と人権のための闘いに献身しました。彼の功績は、ブラジルと日本の両方で称えられています。水野龍は、2011年に亡くなりました」
まるで架空の小説のあらすじのようだ。本物の水野龍は、皇國殖民会社を創立して第1回ブラジル移民船「笠戸丸」を運行するなど、日本人のブラジル移民を初めて手がけた人物であり、本紙読者には言わずと知れた有名人のはずだ。
ウィキペディア(4)にも項目があり、サンパウロ人文科学研究所サイト(5)にも人物伝が出ているのに参照されていない。まったく架空の人物像が返答として帰ってきた。つまり、AIが答えているからといって信用はできない。
そして冒頭の質問の後、「この日系ブラジル人に関する情報は、どこから探したのですか?」とAIに折り返し尋ねると、出典を明らかにしなかった。このAIはすでにネット上にある文章を組み合わせて、質問の主旨にそった内容に書き換える。新しいモノを生成するわけではなく、常に焼き直しだ。書かれている内容が事実かどうかはAIには判断できない。最終的にその内容に関する専門知識を持った人間が確認しないと使えない文章しか生成できない。
だが大量の過去のデータを読み込ませることによって、特に医者や教師、弁護士などの仕事のうち、過去の事例を調べるなどの反復的な作業を劇的に減らす可能性があると報じられている。
このAIの回答の傾向としては、深みがなく、詳細がなく、提示される内容は同じ回答パターンであり、文章としても同語反復を繰り返している難点はある。だが、そこそこのレベルの回答が数秒で出てくるのには驚かされる。かなりの確率で批判的な内容、否定的な評価を含めつつ、最終的には良い内容で終わるパターンがある感じだ。
現在公開されているチャットGPTのバージョンは3・5だが、近日中に最新の4が公開されるとの報道も出ている。米国の技術ニュースサイト(6)によれば、3・5シリーズは1750億個のパラメーターを擁するが、4シリーズは100兆個と報じている。今ですら「それなりのレベル」と感じるが、いずれ「使える」レベルに達するかもしれない。
近い将来、「今読んでいる記事は人間が書いたものか、それともAIが書いたものか」と、眉にツバをつけながら読む時代になりそうだ。(深)