2008年12月に、東京で東京大学のアンデス地帯学術調査が始まって50年を記念して記念シンポジウムが開かれた。本書はその内容をまとめたものだが、単なる要旨紹介では
なく、調査団が一貫して取り組んできたアンデス文明の形成期研究についての基調講演を補遺するデータや解釈を加え、翌年の金製品を副葬した貴婦人の墓などを発掘したペルー北部パコパンパ遺跡の考古学成果を加えて、日本のアンデス文明研究の全体像が理解できるようになっており、ほとんど書き下ろしといってよい。
文明成立の背景、各地の先史文明からインカに至る流れ、その中での神殿研究の意義を解説した「古代アンデス文明とは何か」(関 執筆)、東大調査団の実績とその意義を通観した「アンデス文明形成期研究の50 年」(大貫)、代表的な調査といえるクントゥル・ワシ遺跡発掘の成果から形成期後期のアンデス文明の展開を述べた「大神殿の出現と変容するアンデス社会」(加藤)、パコパンパ遺跡の発掘などから得られた神殿更新等から読み取れる文明形成と権力の発生を解説した「形成期社会における権力の生成」(関)で構成されている。これにシンポジウムでの座談、次世代を担う若手研究者などによるコラムが付く充実した内容である。
(朝日新聞出版(朝日選書)2010年2月 276頁 1400 円+税)
『ラテンアメリカ時報』2010年春号(No.1390)より