ラテンアメリカの言葉と文化について、言語、社会の多様性、詩、美術、音楽、先住民史、食べ物、文化や言語の混淆、言語教育、先住民や多民族政策やそれぞれの各国事情、日本でのラテンアメリカ文化などの切り口からの21 本の論考を19人の専門家が執筆している。
「ラテンアメリカ世界への誘い」でのスペイン語浸透の歴史、ブラジル社会の多様性から始まり、「芸術と文化」はガルシア・マルケスの詩、メキシコの図像、ラテンアメリカ音楽の紹介とその国際化、パラグアイでのグアラニー語の継承を、「先住民言語文化と国民国家」では生き残りをかけた先住民言語、それとも関連があるメキシコ先住民の反乱、1920年代メキシコにおける文化の混淆、ペルーの多言語・多文化世界の選択、エクアドルのスペイン語と先住民言語の二言語教育の実践、チリでの被征服者であるマプチュ族の存在を扱っている。「言語文化の多様性」はカリブ海フランス語圏のクレオール文化と英語圏のジャマイカでの非英語的特徴、ブラジルで進化をとげつつあるポルトガル語、アルゼンチンでの二人称の使い方にみるナショナリズム等を、「越境するラテンアメリカ世界」では日本で紹介されつつあるラテンアメリカ文化と米国におけるメキシコ系住民の言語・公教育問題、スペイン語の標準語とされたカスティジャ語のラテンアメリカからの里帰りによる共通言語化、メソアメリカの主食であるトウモロコシから眺めたグアテマラなどを取り上げている。どれをとってもこの地域のことばと文化には様々な歴史や背景、それぞれの国の事情があることが分かり、ラテンアメリカの見方の幅を広げてくれる。
(成文堂 2009年7月 372頁 3000円+税)
『ラテンアメリカ時報』2010年春号(No.1390)より