目立たないことを良しとしてきたブラジル外交が、カルドーゾ(1995〜2002年)、ルーラ(2003〜10年)両大統領のそれぞれ2期計16年の間に目立つ外交、その守備範囲を大きく拡げる外交へと変貌した。特に先進国だけで牛耳ってきた国際金融においてもG20などの場で新興国、主要開発途上国のリーダーとしてのブラジル外交は目覚ましい。本書はこの近年のブラジル外交の動向を専門分野の異なる6人の研究者が分析したものである。
「国際金融界とブラジル —対立、協調を経て参画の時代」(大和総研 長谷川永遠子)は、IMF体制のいわゆるワシントン・コンセンサスに象徴される国際金融界との関係が、1982年の債務不履行処理をめぐって対立関係にあったものが、88年より歩み寄りが見られ協調関係になり、さらに2005年にはブラジルの対IMF債務完済、06には全ブレディ債を前向きに償還して以降はG20などへの参加を契機にIMF支援に参画していることを指摘している。
「統合EUとブラジル —新コロンブス・ルートを形成」(日経新聞 和田昌親)は、ブラジルにとって拡大するEUが“見えない対米カード”になり、欧州からの企業進出や資金流入がかつて収奪されていた時代を逆のいわば“新しいコロンブス・ルート”が開かれつつあり、日本にとってはブラジルと欧州との間の大西洋が“見えない海”になってくることへの警鐘を鳴らしている。
「米国とブラジル —グローバルな『大人の関係』」(上智大学 子安昭子)は、従前いわれてきたようにブラジルは反米だけではないし、といって親米でもない、南米やアフリカをより重視するルーラ政権の外交政策も、いまや2国間の意見の相違と協力関係だけでは済まない局面をもっていることを、「ポルトガル語圏諸国とブラジル —共通の言語・文化を活かして」(上智大学 西脇靖洋)は、ブラジルとポルトガルとの関係、アフリカやアジアにあるポルトガル語圏諸国との関係の深化と発展を、CPLP(ポルトガル語諸国共同体)の動きとともに紹介している。「中国とブラジル —補完関係と競争関係」(国際貿易投資研究所 内多 允)では、21世紀に急増した中国の頼もしい輸出市場としての存在感だけでなく、中国製品のブラジル国内や第三国市場での激しい競争という面もあることを明らかにしている。最後の「メルコスールとブラジル —関税同盟の内憂外患」(上智大学 堀坂浩太郎)は、ブラジル外交の最優先事項というメルコスール(南米南部共同市場)との関係は、関税同盟として問題を先送りしながらベネズエラの加盟を認めたことで、ただでさえ域内に摩擦要因を多数抱えているのに構想どおりに進展するか?ブラジル外交の方向が問われていることを指摘している。
21世紀に入って大きく国際的影響力を増したブラジルの対外関係を知る上で、それぞれに興味深い分析である。
(国際貿易投資研究所2010年3月108頁2000円 送料無料申込先:国際貿易投資研究所電話 03-5563-1251メール itipost@iti.or.jp )