現在中国やインド、ブラジルなどの新興国への注目が集まっているが、メキシコが成長する消費市場としては日本での関心は高くない。その大きな理由はメキシコの成長率が低いことで、その背景にはNAFTAにみられるように米国経済への極度の依存、政府財政基盤の脆弱性、そして外資を排斥する石油資源開発の遅れがあるが、一方で中長期的にみれば、米国市場向け生産拠点としては為替や輸送なども含め生産コストはむしろ中国より低いといわれ、特に自動車や航空機産業への外国投資は拡大している。
本書はJETRO メキシコ・センターで調査、情報収集、日本企業への進出に関わる情報提供を行っている執筆者が、安定したマクロ経済基盤をもち、消費市場が拡大し、米国向け加工拠点として成長する輸出産業、外資系と財閥系が支配する市場、一貫したFTA推進により競争力を増す産業政策を分かりやすく解説し、今後の経済成長加速のための課題を述べている。さらにメキシコへのビジネス・アプローチに必要な税務・会計、労務、企業設立手順、労働ビザや保税輸入制度、FTA等の活用策から産業財産権の手続に至るまでの実務知識を丁寧に説明している。
メキシコの良い点のみならず、悪い点も含めた現実を紹介しており、治安や2009年の新型インフルエンザ流行についてもコラムで紹介していて、メキシコ・ビジネスを考える上で格好の参考書となっている。
〔桜井 敏浩〕
(ジェトロ 日本貿易振興機構 2010年3月 215頁 1,600円+税)