『ブラジルの社会思想 ―人間性と共生の知を求めて』 小池 洋一・子安 昭子・田村 梨花編 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ブラジルの社会思想 ―人間性と共生の知を求めて』  小池 洋一・子安 昭子・田村 梨花編 


我々の社会が直面する社会の問題の理解やその克服のために、先人達の社会思想や理論が多くの示唆を与えてくれる。ブラジルに存在する人権、ジェンダー平等、市民の政治参加、民衆運動、環境保全、多元的外交、文化創造など、ある分野では先進的な試みを多くもった社会思想が日本でも指針になるとして、それらのエッセンスを21人のブラジル研究者が20章と20のコラムで解説したもの。

第Ⅰ部「社会を解剖する」では社会学者ジルベルト・フレイレの文化相対主義による社会論や同じくフロレスタン・フェルナンデスの民衆の社会学、教育者パウロ・フレイレの被抑圧者の教育学などを紹介し、第Ⅱ部「低開発と闘う」では経済学者セルソ・フルタードの低開発論や社会学者にしてハイパーインフレを止めた大統領フェルナンド・エンリケ・カルドーゾ、その後の大統領になった労働組合活動家出身の政治家ルーラ、その政権でブラジル外交をリードし多国間主義の伝統を貫いた外交官セルソ・アモリンなど、第Ⅲ部「社会運動を率いる」ではいちはやく人種民主主義の神話に異を唱えた黒人運動家アブディアス・ナシメント、天然ゴム採取者の立場から熱帯林伐採への抵抗運動を始めて社会環境保護主義を主張したシコ・メンデスとその後継者の現ルーラ政権で再び環境大臣に就いたマリナ・シルヴァなど、第Ⅳ部「多文化を編む」では人間の本性とブラジルの人と社会を描いた文学者マシャード・ジ・アシスなどを取り上げている。

 それぞれブラジルの社会的現実に対応した独自の思想を生んだ思想者の生涯と業績を解説することにより、世界が目指す対話と共生のためのヒントを提供してくれる示唆に富んだ論考集。

〔桜井 敏浩〕

(現代企画室 2023年1月 512頁 3,300円+税 ISBN978-4-7738-2212-0)
〔『ラテンアメリカ時報』 2023年春号(No.1442)より〕