エビータことエバ・ドゥアルテは1919年にアルゼンチンの寒村で私生児として生まれ、貧しい生活から逃れるべく声優・女優を目指してブエノスアイレスに出たが、なかなか浮上しないで苦闘している中で、1895年生まれのファン・ドミンゴ・ペロン大佐と出会い愛人となった。ペロンは属する「GOU（統一将校団）」の中で頭角を現し労働組合をバックに権力を拡大し、1945年には軍事政権の国防大臣、労働局長と副大統領になるまでのし上がった。ペロンは一旦は軍事クーデターが起き逮捕されたが、エビータも一役買ってCGT（労働総同盟）の労働者数十万人がマーヨ広場に集まることでペロンを復権させた。その5日後、二人は結婚した。ペロンは翌年の大統領選挙に立候補し彼女を伴って各地を遊説して回った。1946年に晴れて大統領夫人となったエビータだが、既存の寡頭政治家夫人たちが主宰してきた福祉団体に公共資金を入れ支配下に収め、独裁者となったペロンの影響力を利用して政治の世界で活躍の場を広げてきた。ペロンの政治基盤の貧しい労働者階級に救済の手をさしのべる慈善財団活動によって政権のシンボルとなった彼女は、大衆の熱狂的支持を集めた。ペロンはその人気を活用しようと彼女を副大統領に就かせることを図ったが、1952年に子宮癌により33歳で急逝した。彼女の死はペロン政権の凋落を早めその３年後に軍のクーデターで追放されるのだが、彼女の遺体はイタリア、スペインを経て故国に戻ったのは1974年だった。
エビータの伝記、解説書は多くの欧米ジャーナリスト、作家により出されているが、本書は同国人作家が初めて真実を描こうとした著作。2001年に中央公論新社から出版された同じ書名、著訳者による既刊書の翻訳を見直した再出版書。
〔桜井 敏浩〕
（竹澤 哲訳 海からの風出版刊・三省堂書店／創英社発売 2022年11月 508頁 1,600円＋税 ISBN978-4-9912478-2-8 ）
〔『ラテンアメリカ時報』 2023年春号（No.1442）より〕
