独立しインドネシアの初代大統領に就いたスカルノは、1955年にインドネシアのバンドンで開催されたアジア・アフリカ会議で「第三世界」の盟主として振る舞ったが、米国等西欧とソヴィエト連邦圏の対立が激化してきた1965年にインドネシアで100万人を超す「共産主義者」の大虐殺が起きた。彼らは反社会的勢力・過激派武装勢力でもない一般市民だったのだが、この事件後軍部が主導権を奪ったインドネシアは米国にとって都合のよい同盟国となった。第二次世界大戦後中立的な第三世界の国々に寛容だった米国政府だが、冷戦深刻化にともない、世界各地で親米政権に変えるためにインドネシアのように軍部へのクーデター支援や政策への介入を行うようになり、その手法は「ジャカルタ・メソッド」と呼ばれるようになった。本書は米国のインドネシアでの外交、CIAによる画策によって起きた出来事を詳細に追っているが、ラテンアメリカのグアテマラ、エルサルバドル、キューバ、ブラジルとともに、CIAが後に「コンドル作戦」と呼ぶことにしたチリでの軍事クーデターでのアジェンデ政権の打倒とその後続いたピノチェット軍事政権下で多くの「共産主義者・危険分子」を殺害したジャカルタ・メソッドについても詳しく言及している。
本書は冷戦を「やり方を変えた植民地主義の継続」と捉え、未だにそれらの国々の多くが過去に犯した罪に向き合っていないことを想起させている。著者はロサンゼルス・タイムスで南米を、ワシントン・ポストで東南アジアを取材してきた米国人ジャーナリスト。
〔桜井 敏浩〕
(竹田 円訳 河出書房新社 2022年4月 416頁 3,800円+税 ISBN978-4-309-22849-59)
〔『ラテンアメリカ時報』 2023年春号(No.1442)より〕