金融と商業が中心の三井グループにあって、アルミ製錬と電力事業を行った三井アルミは、比較的短命で終わったが、九州の石炭火力を使ってアルミ製錬を行い、ブラジルでアマゾンアルミ事業を興す中核になった同社の歴史は、日本の産業史の中でも記憶に留めるべき位置を占める。
著者は三井アルミに勤務し、アマゾンアルミ事業にも深く関わった経験をもつが、社内外の資料を広く収集・解析し、これまでも『黒ダイヤからの軽銀 —三井アルミ20年の歩み』(牛島俊行氏との共著2006年 カロス出版)はじめ、業界専門誌に多くの連載を行っている。
本書は、三井財閥が電力事業に手を染めた時から説き起こし、戦前の電力ならびにアルミ事業への関わりについて詳述した後、戦後の財閥解体からアルミ製錬の再開、三井アルミの設立、三井5社による共同事業にアルミ製錬の本格化、そして海外事業に目を向け、アマゾンアルミ計画の中核として立案、出資、技術供与と人材派遣を行ったこと記録している。第二次石油危機後の構造不況による会社再建、高くなった電力料金に耐えきれずに国内製錬の停止、会社解散という劇的な運命を辿った。アマゾン河流域にある豊富なボーキサイト資源と安価な水力発電に惹かれて、遠くブラジルで行ったアルミナ製造のアルノルテとアルミ製錬のアルブラスは、現在も順調に操業していて、わが国のアルミ新地金輸入の約10%を賄っているが、戦前からの日本のアルミ産業の長い歴史の中から生まれてきた経緯と背景が、あらためてよく理解することができる。ほとんど個人の尽力で集大成したこの記録は、極めて貴重な産業史、企業史である。
(カルス出版2010年6月249頁1905円+税)