19世紀から20世紀にかけて米国の普遍的価値観を形成した歴史としての大陸横断鉄道の建設論議から始まり、冷戦戦略の一環での中南米でのCIAの秘密活動の典型例としてグアテマラで農地改革を図ったアルベンス政権の打倒工作、米国のメキシコ領侵犯で1846年に開戦となり1848年の米墨条約締結で終戦を迎えた米国のメキシコ領カリフォルニア獲得に至る領土拡張の過程、ブラジルで世界大戦中に独裁者として君臨し戦後一旦大統領に復帰したヴァルガスの後を継いだクビシェック大統領による、米国の支援もあった新首都ブラジリア建設など、ラテンアメリカに対する「親米」「反米」の関係を越えた戦略の変化の歴史とその特質を的確に捉えた第1部「アメリカ合衆国の普遍的価値観とその受容」、米国のアフリカ系の音楽文化ならびにブラジルでのシリア・レバノン人移民の商業活動と社会的統合、先住民とその文化への誤った認識と無関心の上にある教育の現状と課題、ブラジル支配者のポルトガル人と宣教によって広く使われていた先住民の共通言語による先住民社会と奴隷として入れられた黒人の包摂をめぐる論考を取り上げた第2部「南北アメリカのマイノリティ」から構成される示唆に富んだ論集。それぞれの部に著者達による各章の観点を解説した4本の読み応えのあるコラムが付いていてより理解を深める一助となっている。
〔桜井 敏浩〕
(明石書店 2023年3月 288頁 3,000円+税 ISBN978-4-7503-5567-2 )
〔『ラテンアメリカ時報』 2023年春号(No.1442)より〕