著者は1967年からラテンアメリカに関わってきた元共同通信記者で、これまでキューバ革命指導者、メキシコの芸術家、ベネズエラのチャベス大統領、コロンビア内戦、ボリビアの日系人ゲリラなどについて多数の著書、訳書がある。本書は長い現地取材のメモ、資料、記憶の基に、『月刊ラティーナ』に連載した24編に新しい事実を註として加筆したもので、1972年のブエノスアイレス取材から始まり、メキシコ現代史の汚点トラテロルコ虐殺、マヤ同胞から裏切り者扱いを受ける1992年のノーベル平和賞受賞者リゴベルタ・メンチュー、ニカラグアのサンディニスタ革命指導者で2007 年に再び大統領に就任したオルテガ、米国からパナマ運河返還や第二運河計画の礎を作ったトリホス将軍、カストロ後のキューバ指導部、今なお正義の象徴として名を遺すチェ・ゲバラ、3選出馬で自業自得の結果になったペルーのフジモリ、パラグアイで35年間独裁を続けクーデタで失脚したストロエスネル、チリ初の女性大統領バチェレの系譜と処罰を免れて死んだ独裁者ピノチェーなどを収録している。
ベネズエラのチャベス大統領の社会主義路線と長期独裁化や、IMF主導の対外債務整理に異を唱えるエクアドルのコレア政権の主張などにはややもすると肯定的と感じられ、その問題点にあまり触れていない嫌いがあるが、ラテンアメリカ現代史の挿話を実際にその時に現地取材しただけに、それぞれに迫力がある。
〔桜井 敏浩〕
(ラティーナ 2010年5月 254頁 1,905円+税)
『ラテンアメリカ時報』2010年夏号(No.1391)より