著者(1909〜57年)は英国に生まれ、ケンブリッジ大学進学を前に極東航路で旅し、その時から多量の酒を飲むようになった。1934年に結婚してメキシコのクエルナバカに数年住んだが、アルコール依存症が悪化し離婚している。本書はこの町に住み妻に逃げられ、アルコールに依存しいる英国元領事ジェフリー・ファーミンの1938年11月2日の死者の日の出来事と彼の非業の死までの物語である。
ジェフリーの家には腹違いの弟ヒューが滞在していたが、ジェフリーの下を去っていた妻イヴォンヌが1年ぶりに戻って来た。イヴォンヌはよりを戻すことを望んでいるが、ジェフリーは受け入れることが出来ない。3人は友人の家に向かうがそこでイヴォンヌが1年間にジェフリーに去った直後に投函した葉書を初めて郵便配達夫から受け取る。ヒューとイヴォンヌの親密なそぶりも気になり、ますます酒にのめり込む。近くの待ちに3人で闘牛を見にいったこの日の夕刻の食事の席から出ていったジェフリーを追ったイヴォンヌが、馬にはねられて死に、ジェフリーも酒場の主人、警官、町の長官・演壇の長と名乗る男達から因縁をつけられ、店を出たところで撃たれ、谷に犬とともに投げ込まれるというのが粗筋である。
一日の出来事を元妻と異母弟との三角関係とそれぞれの過去を縦横に交えて物語っているが、難解である。監訳者により、筋書きの確認と舞台となった1930年代のクエルナバカの地理的、社会的、そして当時の政治的環境についての解説が付されていて、理解を助けてくれる。
(斎籐兆史監訳、渡辺 暁・山崎暁子訳白水社2010年5月506頁3000円+税)