連載レポート１１０：桜井悌司「世界幸福度調査２０２３に見るラテンアメリカ」

連載レポート１１０

世界幸福度調査２０２３に見るラテンアメリカ

執筆者：桜井悌司（ラテンアメリカ協会常務理事）

１．はじめに

2023年3月、恒例の世界幸福度調査報告2023年版（World Happiness Report 2023）が発表された。国連の支援を受けて、「持続可能な開発ソリューションネットワーク」（Sustainable Development Solution Network）が、毎年「世界幸福度報告書」（World happiness Report)というレポートを発表する。このレポートは、2012年に開始され、今年は12回目を迎えるが、世界の137カ国をカバーしている。2012年の第１回調査では、156カ国・地域をカバーしていたが、年々カバー対象国が減少しているのが気にかかるところである。

レポートは、164ページにおよび、開発論で世界的に有名なJeffreySachs, JohnF.Helliwell, Richard Layard, John-Emmanuel de Neve等7名の錚々たるメンバーの協力の下で、「持続可能な開発ソリューションネットワーク」が作成したもので、世論調査で有名な「Gallup World Poll data」も関与している。

各国の国民に「どれくらい幸せと感じているか」を評価してもらった調査に加えて、１人当たりのGDP(GDP per capita) 社会的支援(Social Support)、健康寿命(Health Life Expectancy)、人生の選択の自由度(Freedom to make Life Choices)、寛容性の度合Generocity)、腐敗の認識（Perception of Corruption）といった要素をもとに幸福度を計るものとなっている。

表１の２０２３年度調査に基づいて、世界の幸福度の趨勢をみると、ベスト１０の中に、ヨーロッパ諸国が、８カ国が入っており、その内北欧４カ国がすべて、上位にランクインされている。イスラエル(４位)とニュージーランド(10位)の２カ国が欧州外の国である。イスラエルは、アラブ諸国に囲まれ、常に危険にさらされた国であるが、2020年14位であったが、2023年には一気に堂々4位になった。

アジア諸国のランキングを見ると、シンガポール（25位）、台湾（27位）、日本（47位）、マレーシア（55位）、韓国（57位）、タイ（60位）、モンゴル（61位）、中国（64位）、ベトナム（65位）、フィリピン（76位）となっている。日本は、2022年の54位から23年位は一気に47位に上昇した。

ラテンアメリカをみると、２３位のコスタリカが最高位で、以下ウルグアイ、チリ、メキシコ、パナマ、グアテマラ、ブラジル、エルサルバドルまでが50位以内となっている。後述するが、ラテンアメリカ諸国のランキングが年々下降しているのは残念なことである。

表１　２０２３年版世界幸福度調査報告書にみる世界ランキングと得点

(注)ニカラグア、ハイチ、トリニダードTは２０２３年度調査の対象になっていない。

２．ラテンアメリカ諸国の状況

表２は、2018年から2023年までの6年間のラテンアメリカ諸国のランキングの変化を紹介している。表３では、上位30位・上位50内に入っているラテンアメリカ諸国名（2018年～2023年）をリストアップした。これによると、2018年の調査では、上位30位までに入っていたラテンアメリカ諸国は7ヶ国（上位40位では、10ヶ国）であったのが、2023年調査では、それぞれ2か国、5ヶ国と減少している。ラテンアメリカ諸国の幸福度が急激に下落していることがわかる。

過去6年間で、常に上位３０にランクインされている国はコスタリカのみである。続いてグアテマラが4回、ウルグアイとメキシコが各3回、チリが2回、パナマ、ブラジル、アルゼンチンが各1回となっている。

表4をみると過去1年間のランキングの上下が理解できる。ランキングが上昇した国は、ベネズエラ、メキシコ、チリ、パラグアイ、アルゼンチン等6ヶ国で、下落した国は、コロンビア、ブラジル、ウルグアイ、ジャマイカ等9か国となっている。コスタリカの順位は変わらない。

表５は、2018年から2023年までのランキングの上下を示している。本統計では、2018年から2020年までは、新型コロナウイルス以前であり、2021年から2023年はコロナ後となっている。これによると、様々なことが浮き彫りにされてくる。まず、この6年間で、ランクが上昇した国はわずか3ヶ国のみである。ベネズエラ、ドミニカ共和国、ウルグアイである。一方下落した国は、15か国に及ぶ。それもランクを20以上落としている国はコロンビア、エクアドル、アルゼンチン、ブラジルの4ヶ国、10以上ダウンしている国は、ホンジュラス、グアテマラ、メキシコ、パナマ、コスタリカ、チリ、エルサルバドル、ジャマイカ、ペルーの9ヶ国に及んでいる。

世界幸福度調査2023の新型コロナウイルスに関する全体のサマリーをみると、「2020年と2021年、地域感染を抑えようとした国々は、死亡率が低下し、全体的に幸福度が向上した。しかしそれに追随する国は少なかった。2022年には新種が発生し、オミクロン株の排除が困難になった。信頼感は引き続き死亡率の低下と相関しているが、政策戦略、感染、死亡率はどの国でも非常に似通っており、3年間の総死亡者数はCovit-19の排除に努めた国の方がはるかに少なかった。」と解説している。

表６は、Covit-19の感染者数、死者数に係るラテンアメリカ諸国の統計である。過去６年でランクを上げたベネズエラ、ドミニカ共和国は、パンデミックの影響度が少ないと言えよう。ウルグアイについては、１０万人当たりの感染者数、死者数ともに上位であるにも関わらずランクを上げた国となっている。総じて、ラテンアメリカの大国であるブラジル、メキシコ、コロンビア、アルゼンチン、ペルー、チリ等は必ずしもCovit-19に対し適切に対応したとは言い難いような印象である。その結果が、ランクの大幅な下落につながっているものとみられる。

表２ ラテンアメリカ諸国の過去７年の順位の推移〈201８年～2022年〉

表３　上位30位・上位50内に入っているラテンアメリカ諸国名（2018年～2023年）

（注）下線のある国は30位以内、下線のない国は50位以内

表４　過去１年（２０２２年～２０２３年）のランキングの変化

(注)コスタリカは順位変わらず

表５　過去６年（２０１８年～２０２３年）のランキングの変化

表６　ラテンアメリカ主要国の新型コロナウイルス感染者・死者の統計(累計感染50万人以上)

（出所）FAO　(注)国名の下線はランクが上昇した国 2023年4月19日時点、FAO、ラテンアメリカ協会