題名は軽薄なブラジル旅行記の印象を与えるが、著者は歴とした京都育ちの建築学者、風俗史家で、桂離宮や法隆寺、伊勢神宮などについて考察した著書多数を出している。2004年に二ヶ月半ほどリオデジャネイロ州立大学文学部日本語学科でのフェローとしての生活した際の見聞から、日本人の「常套的なブラジル観にまったをかけること」を狙いに、身近なブラジル人の生活、行動様式などから、日本人からみれば意外なブラジル人の常識や発想を紹介している。
ブラジル男性はハゲは女性にもてると信じているのか? リオの海岸ではフィオレ・デンタル(歯間用糸のように細い紐のビキニ水着)の素晴らしい体型の娘は数少なく、ボサノヴァの名曲“イパネマの娘”に代わる中年女性のビキニ姿と海岸から南に逃避する上流階級住居、サンバとともにブラジル音楽の代表と思われているボサノヴァが、ブラジルでは外国人向けと思われているふしがあることなどから始めて、日本人とブラジル人の女性の美、男性の魅力の違い、母親が中心の家族の絆、アニメだけではないジャパン・クール、国民の大多数を占めるカトリックと日系新興宗教を含む諸宗派の奇妙な共存、日本の子供たちは誰でも知っている『フランダースの犬』や『マッチ売りの少女』がブラジルではあまり知られておらず、しかも子供には暗い、救いのない物語だと解されていること、日本人の謙虚さは卑怯だと見なされ世間体が悪くなる社会もあることを思いしらされたことなど、ブラジルについてというよりは、「彼の地で自分をふりかえる、日本および日本人を見直す読み物」として面白い紀行随想。
(新潮社 新書2010年10月190頁680円+税)