米国には4600万人ものラテンアメリカ系住民が居るが、この数は世界20カ国のスペイン語公用国の上位3カ国のうち1位のメキシコを別にすれば、スペイン、コロンビアにほぼ同じ規模になり、人口増加率も高い(3.4%)ので、2050年には総人口の4分の1を占めると予測されている。本書は、この米国最大のマイノリティとなったラティーノについて、公教育の中での位置づけをバイリンガル教育を中心に分析し、カリフォルニア、ニューメキシコ、フロリダ州の事例から、教育の場におけるマイノリティのエスニシティが尊重されることによってその学力も向上するとの仮説に基づき論証したものである。
まず第一部でエスニック・マイノリティ集団としてのラティーノを、人口規模と社会的地位、これまでの人口増加の軌跡、ラィーノを指す呼称の変化を概観し、第二部で1968年の連邦バイリンガル教育法成立までの歴史、1980年以降のアメリカニゼーションによる英語公用語化運動、バイリンガル教育理論とモデル、「双方向イマージョン方式」プログラムはじめ3州で試みられた教育政策を紹介し、エスニック・アイデンティティの保持、マイノリティの人権としての母語教育に加えてグローバル化の進む地域社会のニーズに対応していると評価が高まっていることを明らかにしている。
最後に、多文化社会においてバイリンガル教育の果たしうる積極的な役割、多言語・多文化理解能力の有用性と他民族・多文化共生社会を支える言語教育の課題に言及しているが、日本でも日系ラテンアメリカ人などが増大してことから、著者(南山大学教授)はこの米国での事例が示唆を与えてくれると指摘している。
(明石書店(南山大学学術叢書)2010年3月262頁3900円+税)