−シリーズ「失われた10年」を超えて−ラテン・アメリカの教訓 第2巻
日本で今に至る長期の経済低迷、多くの社会経済的困難とその喪失感を、新自由主義経済の負の連鎖を先に経験したラテンアメリカから教訓を得ようとするこのシリーズは、既に『ラテン・アメリカは警告する』と『安心社会を創る』が出ており、本書が三部作の最後になる。
地域資源を活かした経済の再生とそれに大きな役割をもつ産業クラスター(集積地) の理論、グローバル化を地域開発にどう生かすかを概説し、各地での地域産業クラスターの果敢な取り組みを、メキシコのグアダラハラで「南のシリコンバレー」を創る試み、輸出指向する自動車産業、高付加価値農産物輸出を目指す温室トマト栽培、ブラジルでのバイオ産業、エンブラエル社の発展にともなう航空機製造産業、飼料から畜産加工品の製造、流通、輸出を網羅したアグリクラスター、米国の特恵輸入制度利用から世界のファッションを支える中米・カリブのアパレル、比較優位の活用から競争優位を創出したチリのワイン、協働により急速に発展した鮭養殖、環境や雇用、所得分配などの社会問題への対応を模索しているコロンビアの切り花、農村開発の代替案として取り組みが始まったペルーのアグロツーリズムといった事例で紹介している。最後にこれらラテンアメリカでの産業クラスターによる地域経済の再生に、日本経済の産業空洞化、失業と雇用の非正規化、所得格差の問題解決に学ぶべき点があるのではないかとの示唆をまとめている。
(新評論 2010年12月 430頁 3300円+税)
『ラテンアメリカ時報』2010/11年冬号(No.1393)より