『エメラルド王』 早田 英志・釣崎 清隆 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『エメラルド王』 早田 英志・釣崎 清隆


早田は1940年生まれ、大学卒業後米航空会社に勤務し退職して1971年に中米に渡り、一旦コスタリカで結婚、家庭をもつが、母の死をきっかけに単身コロンビアに移ってエメラルドの原石を買い付け研磨させて捌くエスメラルデロの道に入る。以後、ボゴタでの買い付けに飽きたらず、強盗の襲撃や喧嘩、殺人が日常茶飯の危険を冒して鉱山地帯と行き来し、次第に取扱量を増やすとともに、業界での信用を培っていく。やがて輸出も手がけるようになり、日本の輸入業者との取り引きも拡大して、コロンビア有数の大手エメラルド輸出者になったという自伝を、共著者の屍体写真家釣崎が取材して纏めたもの。

早田の半生を描いた自伝としては、『エメラルド・カウボーイズ』(PHP研究所 1986年)がすでに出ており、また早田自身が製作・監督・主演し、日本でも上映された映画『エメラルド・カウボーイ』が隣接する鉱山主との抗争の最中の2001年に撮影されたエピソードも描かれているが、本書の内容としてはそれらの延長上にある。

自伝の多くは、とかく自分の生き様の美化や自己正当化が付きものだが、本書も前作もその感が強い。エメラルドの採掘、原石売買、鉱山利権や組合の利害をめぐる抗争、もはや政治的理念とは離れた犯罪集団と化したゲリラ勢力や対する自衛組織パラミリタリーをはじめ私兵や政府軍の暴力の応酬、腐敗した政府組織などの中で、外国人である早田が幾多の困難を乗り越えてエメラルド商売でのし上がっていく姿を綴った冒険ドキュメンタリーとして読めば面白い。

(新潮社2011年6月255頁1600円+税)