著者(小幡 一)は建築家、ドイツ近代建築史研究者で、本書は1970年代にロサンゼルスの日本食レストランで労働許可証をもたずに働いていたときの仲間のKから5冊のノートと数十本のネガフィルムを預かったが、その数年後に人伝手にKの死が伝えられそれが本当かは判らないが、かなりの年月が経ってから整理し、参考文献で知り得たそれぞれの地の状況や歴史の経緯、著者の考え、見方、1896年にメキシコを旅行したドイツ人のケスラー伯爵の旅行記の引用を書き込んだという体裁を取っている。
1970年代の7月にグレイハウンドの長距離バスでラレードという町からメキシコ入りし、ヒッチハイクもしながらかつての銀鉱山の町サカテカス、サンルイスポトシ、サンミゲル(ミグエルと書いている)を訪れ、スペイン語が判らず病気になったり苦労しながら、メキシコ市に入りさらにユカタン半島のメリダにも立ち寄り、南部チアパス州のオアハカまでマヤ等の遺跡やインディオの生活も見て回って、ペルーへの入国に至るまでの旅行の記録を、遠い青春の日の心に遺った詩のように綴っている。
〔桜井 敏浩〕
(和光出版 2023年1月 316頁 1,600円+税 ISBN978-4-901489-66-9)