コルテスがアステカ王国を、ピサロがインカ帝国を征服し、その後植民地になってから、ラテンアメリカからは膨大な量の貴金属、特に銀が本国スペインに送られた。スペインに40年間逗留しマドリッド自治大学で世界・スペイン経済史を講義してきた著者が、経済史の立場からラテンアメリカにおける鉱山開発の歴史を、スペインの発展と衰退の動きとを絡めて纏めた通史である。
植民地化初期の原住民分配制度や委託統治制度、鉱山労働の徴用から始まり、16世紀のメキシコとペルーにおける初期鉱山開発、それらからもたらされた貴金属によるスペインはじめ西欧諸国での価格革命、17世紀に入り銀原鉱の精錬に欠かせない水銀の供給不安などから困難に直面したラテンアメリカの鉱山業、18世紀になりスペインの王位を継承したブルボン王家による諸改革により、水銀供給が回復して繁栄に転じたメキシコの鉱山業の一方で、改善が遅れたペルー副王領のリマとラ・プラタ副王領ブエノスアイレスの貿易利権をめぐる争いはポトシ等銀や水銀鉱山の帰属変更に繋がった。
膨大な量の銀がもたらされたにもかかわらず、生産物の大部分は生産地にもスペインにも止まらず、国外へ流出して欧州の資本主義国に蓄積されたのだが、スペインで長く経済史を研究してきた著者ならではの豊富なデータを駆使した、ラテンアメリカの銀の世界史における意義を探求した実に興味深い読み物。
(行路社 2011年8月 206頁 2600円+税)
『ラテンアメリカ時報』2011年秋号(No.1396)より