苫米地 英人+フィデル・カストロ・ディアスバラールト著
脳機能学者という苫米地氏による第1章は「日本にゲバラ主義を! 世界に革命を!」から始まるが、ここでゲバラ主義というのは、チェ・ゲバラの生き方から「高い理想」と「直接的実行」が柱だとのこと。キューバ社会からその美点である「経済の奴隷、お金の奴隷からの脱却」などを日本も学び、資本主義の暴走、さらにCO2排出権取引を批判し、アマゾンの植林と代替エネルギーの有効利用を説いている。
フィデル・カストロ元国家評議会議長の最初の妻との間の長男であるフィデル氏は、ソ連で学んだ物理学者で原子力が専門、キューバ政府最高科学顧問の地位にある。第2章で世界の環境、エネルギー問題でキューバが貢献出来ることと題して、気候変動による地球環境の保護とエネルギー開発は両立出来るかなどを論じている。
第3章は二人の対談で、ソ連が崩壊し米国が残った理由は非軍事部門の生産性の差、世界の飢餓、教育、資源消費、排出権ビジネスと地球環境問題など、多岐にわたっている。キューバの問題点としては、フィデル氏は輸送インフラの老朽化と食料生産性の低さを上げているが、エネルギーのネックは国内原油・天然ガス生産の伸びでほぼ足りていると指摘している。
キューバを論じた本は、困窮した経済の中での自給工夫などを例にした礼賛が多いが、苫米地氏もその立場にあり、またあちこちに論旨に飛躍が見られる。一方、フィデル氏の論調は、意外に科学者らしい、政治イデオロギー色のほとんどない冷静な論旨であり、対照的である。いずれにせよ、当然にキューバの政治・経済・社会の問題点にはほとんど触れておらず、キューバの実情を知る情報を求める読者には物足りない。
〔桜井 敏浩〕
(徳間書店 2011年7月 229頁 1,400円+税)