ブラジルの財務相としてレアル・プランを主導してパイパーインフレを終息し、1995年から2002年年に大統領を務めたカルドーゾは、本来社会学者であり、軍部クーデタの翌年1964年にチリに亡命しチリ大学で教鞭をとっていた際に、チリの歴史学者ファレットとともに纏めた「従属論」の古典書である。欧米中心国の搾取が周辺国を低開発に留めているとする従属論者も多いが、それでは将来も悲観的にならざるを得ない。しかしカルドーゾの従属論は途上国内部構造に着目し、中心・周辺関係だけに運命づけられない、社会集団の構造のもたらす制約と機会により構造は維持・変化するのであるから、個々の国・地域ごとに歴史的・具体的に分析しなければならないと説き、ブラジルを含む途上国が近年の成長路線に乗ることを予見していた。
本書の初版は1969年、その後出た英語版等の加筆修正も適宜取り込み、著者自身の日本語版序、恒川惠市政策研究大学院大学副学長による解説により、40年後にあらためて本書を訳出したことの今日的意味を明らかにしている。
(鈴木 茂、受田 宏之、宮地 隆廣訳東京外国語大学出版会2012年4月 348頁 2800円+税)
『ラテンアメリカ時報』2012年春号(No.1398)より