風土も歴史や社会、生活や意識も異なる現代スペイン語圏ラテンアメリカの小説作品にはそれぞれの国独自の伝統や歴史もあるが、植民地時代の歴史的記憶や遺訓、複合的な人種構成などの共通する特徴がある。それらを文学作品を通して、想像力を駆使してラテンアメリカの現実の風土への理解を近づける一助にという意図で纏められた評論集である。
著者(元京都外国語大学教授)がこれまでの学究生活で綴った、先住民の割合が比較的多い国の作家や作品を主な対象とした論考、評論、執筆当時と重なる中南米の政治や社会を含む話題を織り込んだコラム、そして8編の作品紹介に加え、巻末の詳細な参考文献リストと人名索引と幅広く網羅しており、ラテンアメリカ文学に深い関心と読書歴を持つ読者向けの専門書。
〔桜井 敏浩〕
(行路社 2023年2月 533頁 4,500円+税 ISBN978-487534-457-5)
〔『ラテンアメリカ時報』 2023年夏号(No.1443)より〕