『ポピュリズム大陸南米』 外山 尚之 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ポピュリズム大陸南米』   外山 尚之


前日本経済新聞サンパウロ支局長が2017~22年の間の南米での取材した国々のうち、「21世紀の社会主義」が崩壊したベネズエラ、落日の大国を覆う投票の呪縛でもがくアルゼンチン、怒りが揺らす社会秩序のブラジル、格差が招く終わりなき混乱のチリ、コロンビア、ペルー、ボリビアの7か国を取り上げて、終章でポピュリズム大陸から日本への警告を指摘している。
南米に限らず左派政権を誕生させているのは格差への怒りである。中道・右派政権の不作為で生活のみならず医療、教育での格差は新型コロナウィルス渦で一層実感された。数で圧倒的に多い貧困層が既存体制の打倒、社会の変化を望んで選んだ左派政権の前途は厳しい現実が立ち塞がる。現金給付はじめ財政的に出来もしない大言壮語で大衆を煽るのがポピュリズムである。世界でも有数の政治安定国の日本でも、近年の選挙では各党が現金給付を競い、一方国民の反感を呼ぶエネルギー問題や社会保障費の膨張を議論しない姿をみると、南米のポピュリズムを嗤うことは出来ない、南米で起きていることは、日本にとっても、日本人にとっても対岸の火事ではないとの指摘は鋭いが、「元現地特派員による渾身のルポルタージュ!」という帯の惹句どおり、著者の経済紙記者として経済・マーケット報道の域を超えて、実際はなにが起こっているのか、そこに至るまでどういう歴史、背景は何かを探求しようとする姿勢が全編を貫いており、南米の実態を理解する上で優れたルポルタージュとなっている。

〔桜井 敏浩〕

(日経BP・日本経済新聞出版 2023年6月 314頁 2,800円+税 ISBN978-4-296-11346-0)
〔『ラテンアメリカ時報』 2023年夏号(No.1443)より〕