紀元1~6世紀にメキシコ中央高原テオティワカンに栄えた古代都市は、壮大な建造物で知られるが、元愛知県立大学名誉教授で、米国アリゾナ州立大学で博士号を取得した著者は43年間にわたってこの遺跡の調査を続けてきた。
「月のピラミッド」「太陽のピラミッド」「羽毛の蛇のピラミッド」の長年にわたる発掘調査で明らかになったことから、この計画的都市を造った住民の世界観は何だったのか? その優れた天文学の知見や図像の表現性、暦の解析と三大ピラミッドの建築基準を突合することによって、ピラミッドも単に神殿の基壇ではなく地下界と天上界の出入り口、生死に関わる儀礼の場であったこと、中心建築群が天体の動きと暦の大周期を反映していることなどを明らかにしている。王権の象徴として建立された「羽毛の蛇のピラミッド」の更改から権力の分散化、衰退、戦争と王権、社会の変化を知ることが出来ることなど、メソアメリカ考古学の面白さを縦横に語っている。
本書は著者も監修者として参画した2023年6月16日~9月3日の間、東京国立博物館平成館で開催の特別展「古代メキシコ ―マヤ、アステカ、テオティワカン」の開催に合わせて上梓されたもの。
〔桜井 敏浩〕
(朝日新聞出版(朝日選書) 2023年6月 199頁 2,000円+税 ISBN978-4-0226-3125-1)
〔『ラテンアメリカ時報』 2023年夏号(No.1443)より〕