群馬県高崎市から北関東を利根川沿いに横断して霞ヶ浦の北を通り九十九里浜の鉾田市に出る全長172kmの国道354号線の沿線には、工場団地や輸出中古車の集散地、農園が散在し、そこで働く外国人が多いことから、彼らを対象とするエスニック食堂・食品店が多く点在する。ベトナム、タイからパキスタンなどのアジア諸国人の集住地とともに伊勢崎市にはボリビア料理店があり、同市若葉町にはペルー料理の“El Kero”があって店主の得意料理がロモサルタードであること、ペルー人が集まった経緯等を聞き出している(P.27~32)。太田市、大泉町にはすばる、三洋電機(現パナソニック)等の工場があり、ブラジル食材店、日本最古のブラジル料理店「レストラン・ブラジル」、そしてブラジル食材の大型スーパーマーケット“TAKARA”「キオスキ・シブラジル」がならび、昼には近隣の工場で働く南米人がレストラン「パウリスタ」に集まる外国人集住地となっていて、大泉町の観光協会には名物事務局長や日系ブラジル人や日本生まれの移民の子がブラジル人の就業や生活の支援を行い、日本人社会との共生に努めている(P.39~81)。
国道354号線沿いに展開する外国人の“異界”を訪ねることで、隣り合った生活者であるのに互いに目に留まらない現実を紹介し、日本人と外国人とが存在を認め合い、ごく普通の隣人になる日は来るのだろうかと結んでいる。
〔桜井 敏浩〕
(新潮社 2023年3月 284頁 1,600円+税 ISBN978-4-10-354981-9)
〔『ラテンアメリカ時報』 2023年夏号(No.1443)より〕