1973年の世界的な大豆不足を契機に、当時の日本政府・民間経済界に資源・食料の安定供給源を確保する動きが加速、国際協力事業団(現JICAの前身の一つ)も設立され、ブラジル国土の約1/4を占める不毛の大地セラード農業開発への協力も始まった。本書は、1979年日伯農業開発協力社(CAMPO)への出向以来、このプロジェクトに関わってきたブラジルへの協力専門家と、JICA研究所長が纏めた両国協力による壮大な農業革命の記録である。
ブラジル熱帯サバンナでずっと農業不適地といわれてきたセラードが、土壌改良や熱帯性気候に適応した大豆等作物品種の開発、流通インフラ整備の進展により、両国の協力により試験的実施から入植者を募り、事業地を拡大し、ついには世界有数の穀倉地帯に変貌させるまで、様々な技術、営農、流通などの課題に挑戦し、尽力した多くの関係者へのインタビューによって、“セラードの奇跡”を可能ならしめた人と組織を明らかにしている。
今やセラードが世界の食料供給と価格の安定に大きな役割を果たしている一方で、生態系・環境保全に最大限の配慮をしていること、単に農業開発に留まらず、多様なアグリビジネスを発展させてブラジルの成長にも大いに貢献していることも、詳細に記述されており、我が国の長期かつ最大の協力事業であるセラード農業開発の歴史と全貌を理解する上で極めて有用な記録である。
(ダイヤモンド社 2012年7月 252頁 1600円+税)
『ラテンアメリカ時報』2012年夏号(No.1399)より