1928年生まれで外交官の息子として幼少時代をラテンアメリカ各地で過ごし、1952年以降メキシコに落ち着き、自身も外交官の職につく傍ら幾多の小説を執筆しているメキシコの代表的作家の長編処女作。
青春時代を過ごした1950年代のメキシコ市は、メキシコ革命と産業化により権力と金を得た新たな上層階層と、地方から流入する中下層民により都市化が進んでいた。革命期に父がマデロ派であったため政治抗争で失い、母と暮らすロドリゴ・ポラと、革命で大農園を失ったオバンド家の人々、逆にオバンド家の小作人から銀行家として成功したフェデリコ・ロブレスに多くの脇役的な人物が登場し、語り手的なイスカ・シエンフエゴスが彼らの生い立ちや現在の生活を独白や対話で交互に語らせ、場面も頻繁に変わるという、今ではラテンアメリカ文学では多い手法で話しが展開し、最後の部分でイスカの本性が明かされる。
巻末に32頁にわたる「読解の手引き」に、数多い登場人物と歴史人物を50音順に整理した一覧、1521年から1952年の間のメキシコ史略年表が付いていて、ラテンアメリカ文学にさほど親しんでいない読者に本書の“攻略本”として理解を助ける工夫がなされている。
(寺尾隆吉訳現代企画室2012年3月504頁3200円+税)