ブラジルで最も高い評価を受けている文豪であるばかりでなく、19世紀世界の、またラテンアメリカ最高の作家とも評されている、マシャード・ジ・アシス(1839〜1908年)の文学を、その代表作『ブラス・クーバスの死後の回想』(武田訳光文社古典新訳文庫 2012年)の物語世界を細部に至るまで独自の視点で読み解き、背景にあるブラジルの歴史、人、社会、文化を考察することによって、西洋と非西洋を合わせもつブラジル世界を総合的に読み解こうとした、ユニークなブラジル文化論。
著者は『ブラス・クーバスの死後の回想』には、ブラジルの人、文化、社会を理解する“公式”が隠されている。それは歴史、社会ばかりでなくブラジル人の社会遊泳術(“ジェイチーニョ”−ブラジル・サッカー選手が審判の目を盗んで要領よく立ち回るのもその一例)や、サンバ等の音楽、カルナバル、さらにはカポエイラ(奴隷黒人から生まれた武芸)などに至る、代表的なブラジルの文化事象の特質まで見事に解き明かしているという。日本でもブラジル文化について知られるようになってきたとはいえ、まだ表面的にしか見ていないものが多い中で、著者の 20余年のブラジル文学研究が生んだ独創的な切り口のブラジル文化論でもある。
(武田 千香東京外国語大学出版会2013年 3月325頁2800円+税)