連載エッセイ266:ピーター藤尾「チリの風」その17 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ266:ピーター藤尾「チリの風」その17


連載エッセイ 263

「チリの風」その17

執筆者:ピーター藤尾(在チリ・サンティアゴ)

「2023年7月31日~8月6日」

「政治」

1)ボリッチ動向

もうすぐチリで開催されるパンアメリカ大会の会場視察に国立競技場を訪問。それより大事な北部のアントファガスタ訪問もありました。さて最重要問題は目標80億ドルの増税をどうするかです。それがないと資金不足で年金改正・教育是正など多くの案が実施できません。既に一度国会で失敗していますから、同じアイデアでは無理です。国会で成立させるためには野党との合意が必要です。その協議を続けていますが、あまり進んでいるように見えません。新聞に大蔵大臣の疲労が目立つと出ました。大手鉱山のロヤリティ税についても問題になっています。リチウムの開発権の販売も同じですね。政府の思うようにはいきません。

教員スト

ストが実施され、多くの学校で授業が止まりました。政府と教員組合の話し合いもうまくいっているようには見えません。

しかしボリッチがリードしなければいけないのは身内の新左翼の不正事件です。国から金を受け取り簡易住宅を作って貧民層に援助する運動が、国から金は出たのに作業が始まっていません。南部の州で、その新左翼の仲間で前回の大統領候補になった人間が逮捕されました。これに続いて、新左翼RD党の党首がそれを不正に入手していたとして逮捕されれば、新左翼崩壊ですね。他の新左翼党が自分たちは彼らとは違うとそっぽを向いても、もう遅いでしょう。新聞の社説にその新左翼の党の不正は明白だとされています。続々と逮捕者が出るでしょうね。次の国会議員選挙が楽しみです。

ピニェラが今こそ右翼側はすべての党が手を握って、崩壊寸前の左翼から政権を取り戻そうと呼びかけました。ただほとんど各党からの反応はなかったと次の日のテレビのニュースに流れました。それに関連してジャクソン大臣の交替が野党から要求されていますが、与党からも現政権の頭痛の種のその件を早く解決すべきとの声も出ています。

しかしその逆に過去に間違って逮捕され拘留された人が過去10年で39235人もいるとされています。その一つの例として、怪しいと見られて調べられ何かの薬品を持っていると、それは麻薬だとされ逮捕、拘留とか。後でそれは麻薬でないことが分かると釈放された由。

「経済」

1)銅価格と為替

銅価格は1ポンド当たり3.83ドルと先週より下がりました。為替は1ドル854ペソとペソ安がひどくなっています。中国が絶好調にならなければ銅の需要が急激に伸びて価格が上がるのは無理でしょうね。

2)GDP

中銀のイマセック指数が発表されました。6月は対前年1.0%のマイナス。5か月間連続のマイナス成長です。過去12か月でマイナス1.1%。その傾向が長い間継続というのが分かりますね。落ち目ではないが景気復活の気配もないですね。

3)株式市場IPSA

何と今週も一日、歴史上の新記録6402ポイントを記録。どうしてIPSAが記録更新を続けるのかよく理解できません。関係ないけど、ガソリン価格が今週かなり上がりました。日本も毎週上がっているようですね。

「一般」

1)マプチェの犯罪

いつものように、いやいつも以上に放火事件が継続です。学校・教会・診療所など市民にとって大事な建物に火をつけて壊します。そばにマプチェを刑務所から釈放しろと書かれたものが残されています。被害者の人がニュースに何人も出ましたが、もちろん普通の人で、たまたまそこにいたのが、運が悪かったわけです。市民が一体いつまで私たちは苦しまされるのだ、軍隊を出しているのに正規に機能しているのか?とクレームしています。その事件の中心になったトライゲンに政府は軍隊の基地を設置する計画を発表しました。軍隊が動き回らずとも犯罪グループを見張ることができると言うことですね。上手くいくでしょうか。

ボリッチ政権が始まったとき、マプチェ問題に軍隊を使うピニェラ方式ではいつまでたっても解決にはならない。私たちは話し合いから始めるとして、内務大臣は最初の仕事としてアラウカニ州に行きましたが、話し合いどころか発砲されて逃げ戻りました。新政権は実態をよく知らないと言う感じですね。しかしマプチェがそれだけ活動を続けるには資金が必要で、それは麻薬から来ていると見られますから、その分野を調べると彼らの犯罪行動もしぼんでいくと思えますが、違うかな?

2)病気

コロナ問題もインフルエンサも収まってきて、マスコミにそのニュースが書かれることはほとんどありません。良かったね。                  以  上

「2023年8月7日~8月13日」

「政治」

1)ボリッチ動向

今週の話題は一つだけ、彼の同僚・仲間だったジャクソンが社会発展省の大臣職を辞任しました。彼は今問題になっているRD党の創始者です。右翼が勝ったと言うコメントや、これで年金改善問題などで与野党が共通の席につけると言う意見もあります。チリの風その1051でジャクソンは外されると予想しましたが、ばっちり当たりました。

さて政府は公約を守り、市民に住居を用意しろと訴えるデモがモネダ宮殿の前に近づくとボリッチは大統領府の規則を破って彼らに近づきマイクで呼びかけました。「皆さんは私の事をよく知っている。私は規則を頻繁に変えることはしない。約束は守る、それが私だ」デモ隊は別にそれを喜んだことはなかったようです。

右翼の動きとして前大統領のピニェラが人気を上げてきています。モネダ宮殿を出て2年ですが、今週は一番動きがあったとか。毎週木曜日、彼の持つビタクラ区の事務所に彼の政権時の大臣などの仲間が集まり、政界の動きの論議をしています。

年金改善案の一つ、2%の追加支払い分の行き先などがさっそく会議のタイトルになりぞうです。来年の予算の用意が上手く進まないようです。

2)簡易家屋不正問題

問題が発覚してから7週間になりますが、今までの所、ほとんど全国で同様の問題が起きています。11の州で53の団体に疑惑がかかっています。総計321億ペソで数十名の関係者が取り調べを受けています。

3)区長の評価

サンティアゴはチリを代表する特別な区の一つですが、現在の町長ハスレルは市民の62%に拒否されるほど人気の少ない区長です。犯罪の抑制が出来ない、有名な高校で暴力事件が頻繁に起きる。そして今回は、同区の有名な通りの名前を軍事革命50周年に関係して変更しようとしています。与野党からそのアイデアを拒否する動きがでています。

「経済」

1)銅価格と為替

今週は1ポンド当たり3.74ドルと先週よりかなり下がりました。このため為替もドル高で1ドル860ペソです。この数字は2か月ぶりのドル高です。チリの株式市場IPSAは0.52%下がりました。

2)世界のワイン価格ランキング

一番高いのはフランスのモエット・チャンドンで1本1275ドル。チリからコンチャイトロ社の製品が368ドルで9位でした。

「一般」

1)犯罪

いつまでたっても良くならない気がしますが、そうでもないようです。私の場合ですが、芸術グループを連れてモネダ宮殿に行って軍事革命50周年記念の話をする予定でしたが、日本人グループがセントロに行くと犯罪に会う可能性が高いと言われ中止しました。

しかし最終日、グループの移動を担当した運転手は、今年は犯罪対策がよく機能するようになって、モネダ宮殿だけでなく、アルマス広場も犯罪が減少しているとか。その二つの場所を結ぶ道路も警察の活動のため犯罪がかなり低下したとか、うれしいニュースですね。

2)パンアメリカ大会

チリでそれが開催されるまでにあと約100日です。毎日のようにそのニュースが出ます。チリも金メダルを取れるかな?                   以   上

「2023年8月14日~8月20日」

「政治」

1)ボリッチ動向

パラグアイに外遊しました。理由はその国の新大統領就任記念式に参加するためです。

ところでその国に行くのに彼に同行したのはピニェラ前大統領でした???左翼側のバチェレットとかラゴスなら理解できますが、右翼のピニェラを同伴するなんて私にはわかりません。自分の父親の年齢のピニェラに「叔父さん、色々教えてください」って言ったのかな?もちろんそれは後述の政府・野党の面談に関連してきます。不思議なのはこの外遊は大統領府広報のボリッチ動向に書かれていません。

そして第3回の大臣入れ替え式を実施。今回は5名の大臣が交替しました。なんと4名が女性でした。教育大臣アビラ(RD 党)は教員ストをうまく抑えられなかったとしてカタルド(共産党)に交替。この一連の交替で一番影響を受けたのは民主革命党RDです。その党首は自分ではもう駄目だと辞任しました。例の簡易家屋建設不正問題の中心になっている党です。それだけでなく種々の不正問題で疑惑のある組織のほとんどは(78%)現政権時に結成されたものとか。検察がしっかり働いて不正関係者は右翼でも左翼でも有罪にしてほしいもの。

ところで社会党党首が今回の大臣交替に私たちは何の関与もなかったとコメント。昔、政府の中心だった時代を思い出すのでしょうね。そしてその後、政府と野党連合チレ・バモスの面談が行われました。そのチレ・バモスには極右の共和党は参加していません。もちろん簡単に両者が意気投合するわけはないでしょうが、ボリッチはどこまで頭を下げれば、種々の問題にどう協力してもらえるかの様子見でしょうね。ピニェラのアドバイスを使って。勿論極右の共和党のトップのカストもその面談に関してコメントしています。後ろからチレ・バモスを操っているのかな?そのチレ・バモスのメンバーのエボポリ党のクルスコケは議会で議論することを政府が決定しようとしているのは不可解だとしています。もっとも今回の大臣交替は何を意味するのかよく分からないとする記事も新聞に書かれています。

新憲法委員会

共和党グループがリーダーになっている今回の新憲法委員会ですが、一部の左翼委員から新憲法案が出来てそれが国民投票になる時、自分たちはノーと投票するとしているとか。社会騒乱の時、ピノチェットが作った憲法を廃棄し、自分たちの手で憲法を作ると叫んでいたのですが・・・

「経済」

1)銅価格と為替

銅の価格の減少が止まりません。今週も先週より下がり3.71 ドル。このため為替も1ドル864 ペソとペソ安が続きます。

2)景気

4-6月のGDPがマイナス1.1%になりました。昨年はまだ順調だったのに、今年に入り1ー3月がマイナス0.8%でしたからプラス成長から大きく離れています。好調だった株式市場も落ち込んで6400ポイントまで行ったのに今週は6133ポイントで終わりました。

この7月、700社を超える企業が倒産とか。景気回復の雰囲気はありません。フーム厳しい。サンティアゴの公共バスが10ペソ値上げします。景気と直接には関係ないけど、どこかで影響しますね。

3)リチウム

少し前、大きな話題を呼んでいたのがこの鉱物ですが、世界最大級の鉱山SQMソキミチは利益が急に低下しています。一時1トン当たり59.000ドルまで上がったのに、現在は2021年以来で最低の34.000ドルになっています。どうしたの?需要が減少?

「一般」

1)月曜日

日曜日の落ちついた雰囲気が月曜日になると大きく変わって車両の通行も歩行者の数も増えます。ところが今週は・・・?それは火曜日がキリスト教の祝日だったので月曜日に休みを取り4連休にした人が多く出たからです。その長い休みで44万台の車が首都圏から外に出てゆき、交通事故で13人が死亡、1700人もの運転手がアルコール関連で逮捕されました。

2)子供の数

成人女性一人当たりチリでは1.3人の子供が記録されています。その数は前年より7.2%減少になっていて、毎年人口が減っていく傾向です。

3)犯罪

いつものようにアラウカニア州でマプチェの放火事件が起き、教会・学校・家屋・車などに火がつけられました。政治犯として逮捕されている同志の釈放を要求すると言うパンフレットが置かれていました。警察や陸軍は何をしているのでしょうか。その地区に住んでいる人は毎日ドキドキして生活しているのでしょうね。厳しい。マプチェがすべて悪いとは言いません。「ここは自分たちの領土だ。ここに侵略してきたチリ人を追い出すのだ」とするグループが問題なだけです。もちろん、彼らも命を懸けて戦っているのでしょうが。

4)大雨問題

この週末、大雨になり、首都圏から南の各州で被害が出ています。6月末の大雨から河川の氾濫が繰り返されているわけです。その雨は来週まで続きそうです。  以 上

「2023年8月21日~8月28日」

「政治」

1)ボリッチ動向

厚生年金の改善方法などの理由で政府は中道政党3党と面談し、進行方向の調整をしました。それからボリッチは水害地の視察をしました。今回の水害で33000人が自宅から避難することになった他、41000人が通行が遮断され自宅から出られない状況になったらしい。それは徐々に解除されました。週末には雨が上がりましたが、それでも被災地はまだ半分くらい正常化されてないとか。川の水が氾濫し、市中に入り込み、ある町では8割の家に水が浸入。また道路や橋が壊れ通行不能になったところが多くあります。土砂崩れで人が住めなくなったマンションもあります。

被災者援護の計画

このため、政府は被災者援護案を即時実施するとしています。被害の少なかったサンティアゴですが、それでもこの冬季に降った雨量は189ミリで2009年以来の雨量でした。

この冬の大雨はチリ全体では過去100年で5番目に多い量だったとか。

ジャガイモの値段が急騰しました。

チリの農業の中心地の中南部がこの水害で、総合で10億ドルの被害が出るだろうと予想されています。この大雨で農作物の生産が困難になると野菜果物の価格は急上昇でしょうね。

ボリッチ政権が始まって17か月が経ちましたが、否定的な考えが蔓延しています。彼ではもう駄目だと言うことですね。それがチリの政治経済に悪い影響を与えるとされます。彼は次の右翼政権のための下準備をしていると言うコメントも出されています。

教員スト

政府の提案を教員組合は46対54で拒否し、来週から完全ストに突入とか。問題点は給与やボーナスなどいつもの通り。今週は各地の学校で授業が中止になったところがありますが、それは水害ですから、来週の教員ストとは全く違う理由です。

駐イギリスのチリ大使辞任

彼女は南部で500万ドルの政府援助で地方開拓をしようとしたのですが、それが怪しいとみられたわけです。しかしボリッチは大使任命の時にそんな情報の確認もしないのですね。

「経済」

1)銅価格と為替

1ポンド3.80ドルと2週間ぶりに3.8まで戻りました。少し銅の価格が良くなったので為替でペソが少し強くなり1ドル846ペソまで戻りました。IMFはチリの経済予想で政治不安定から社会不安が大きくなり、それが経済全般に悪い影響を与えるだろうとしています。今年の経済成長率がプラスになるかマイナスかはコメントされませんでした。

「一般」

1)バス代値上げ

バス代が10ペソ上がりましたが、それは社会騒乱の原因になった2019年10月以来の値上げです。これを受けてまたタダ乗り運動が始まりました。4年前はボリッチのグループが先導していたのですが、彼は今回はそれにどう対処するかな? まさかボリッチが、そのグループにもっとやれと激励を飛ばさないでしょうね。それを取り締まるのに警官を、グループの前面に置くと、「警察は市民をいじめるのが仕事か」と誰かに言われるでしょうか?それは昔、ボリッチが言っていたことですが。

ピニェラ政権時の内務大臣ブルメルは、「それは左翼がピニェラ政権にダメージを与えるため実行した政治行動だった」とコメントしましたが、じゃ、現在の運動は左翼がボリッチを落とすためやっているのかな?違うとすれば、そのグループは規則・規制を破壊するのが喜びなのでしょうね。

2)マプチェ問題

4台の大型トラックが全焼しました。毎週、同じで、全く進歩・改善はありません。

3)大学ランキング

よく発表されますが世界ランキング1000の中にラテンアメリカの国からどれだけ選ばれたかが発表されました。1位はブラジルで18大学、2位はチリで4大学、そして3位はメキシコで3大学でした。小さいチリがよく頑張っていますね。      以  上