『独裁者の料理人 -厨房から覗いた政権の舞台裏と食卓』 ヴィトルト・シャブウォスキ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『独裁者の料理人 -厨房から覗いた政権の舞台裏と食卓』  ヴィトルト・シャブウォスキ


現代史に記憶される独裁者たちが大量の処刑を命じ、国民が飢餓で死にかけている時、世界戦争の瀬戸際まで追い込んだ時、彼らの食べていたものは政治に影響を与えたのか? 料理人は歴史に何らかの役割を果たしたのか? に答えるために、ポーランドの報道記者である著者は独裁者に仕えた本物の料理人を探す四大陸の旅に出た。イラクのサダム・フセイン、ウガンダのアミン、アルバニアのホッジャ、カンボジアのポル・ポトと並んでキューバのフィデル・カストロの料理人を務めた二人を見つけ出し、説得して長時間インタビューしている。独裁者の姿はどんなふうだったか、彼らは如何にして権力を握り、体制を維持したのか?とともに、普通の人がどういうきっかけで独裁者の料理人になり、過酷な状況の中で生き延びたかを明らかにしている。

フィデル・カストロについては193~247頁を当て、バチスタ政権打倒の打倒を目指すカストロ兄弟やチェ・ゲバラが率いるゲリラ部隊が、シエラ・マエストラ山脈からエスカンブライ山脈に移動した際に、故郷のサンタ・クララのレストランで働いていたエラスモは合流してチェのボディガードとなり、その後チェの料理を作るようになってフィデルのボディガードとして身の回りもみることになり、料理を担当することになった。今はハバナの旧市街の個人経営レストランのオーナーシェフとなって成功している。もう一人の少年時代からゲリラの手伝いをし、給仕人・料理人として働いたフローレスは、ヘミングウェイが釣りを楽しんだマリーナの町で孤独と極貧の生活を送っている。

フィデルやチェの食の好み、フィデルの好物のアイスクリームを使った毒殺の試み、ソ連崩壊後の物資欠乏時代の耐乏生活でのフィデルの工夫の指示、彼らを通じてのフィデル観などが散りばめられていて、キューバ現代史の一面を伝えるルポルタージュになっている。

〔桜井 敏浩〕

(白水社 2023年4月 336頁 3,000円+税 ISBN978-4-560-09482-3)