フランスの飛行士にして作家のアントワーヌ・サン=テグジュペリは童話『星の王子さま』で知られ、1943年に出版されたが今なお世界中で同書の出版が相次ぎ、子どもばかりでなく多くの大人たちに愛読されている。サン=テグジュペリは、1900年生まれ、フランス空軍勤務を経て26年に民間航空会社の飛行士となり、北アフリカで活躍、その間サハラ砂漠に不時着した経験をもち、これが後の『星の王子さま』の筋書きにつながるのだが、その前29年にこの地域での飛行経験を基に『南方郵便機』を出版、同年所属航空会社のアルゼンチン法人の支配人としてブエノスアイレスに赴任、翌30年にエルサルバドル人のコンスエロ・スンシンと知り合い、恋に陥る。31年にフランスに帰国し、コンスエロと結婚、またパンパ、アンデスを舞台にした『夜間飛行』を出版する。ちなみに、親友のゲラン社の調香師が発表した香水にその名が付けられて、今日に至るまでゲランの代表的な香水の一つになっている。
その後は所属航空会社の合併で発足したエールフランス社のテストパイロットになり、さらに賞金がかかったパリ〜サイゴン間飛行に挑戦してリビア砂漠に不時着し、ベトウィン遊牧民に救出され生還する(これが『人間の大地』の執筆に繋がる)などした後、新聞特派員を経て米国に渡りニューヨーク〜ブンタ・アレナス間長距離飛行に挑むがグアテマラで離陸に失敗し重傷を負い、暫くはコンスエロとともにエルサルバドルに滞在する。1939年フランスに帰国、第二次世界大戦の勃発とともに軍務に就くがヴィシー政権の発足により除隊し米国亡命後に再び軍務に就いて44年に偵察任務にコルシカ島から飛び立った後消息を絶ち、44歳の若さで散った。
本書は、『星の王子さま』について日本での訳書の出版をめぐっての挿話を含めた解説6編、サン=テグジュペリの人となりについての5編、作家として、その作品についての評論7編の論考と略年譜から構成される。うち、『夜間飛行』について解説した「大空が明るかった時代の記念碑」(柳田邦男)と「夜間飛行」(松岡正剛)があるが、舞台になったアルゼンチンについての言及は少ない。商社員としてエルサルバドル等ラテンアメリカに駐在経験をもつ平尾 行隆氏による「サン=テグジュペリの妻 コンスエロ」(96〜110頁)は、彼女の生い立ち、メキシコの文筆家、フランスのジャーナリストとの結婚、サン=テグジュペリとのブエノスアイレスでの出会い、危険をともなう飛行士を辞めない夫との不安に満ちた結婚生活、晩年を紹介して、「アントワーヌとコンスエロの愛と、その葛藤は、『星の王子さま』という作品に浄化され、永遠の高みに達したのである」と結んでいる。
〔桜井 敏浩〕
(河出書房新社編集部編 河出書房新社 2013年4月 167頁 1,600円+税)