マヤ古代文明史研究は、この十数年の間に各地での遺跡等考古学調査の積み重ねと、古代マヤ文字解読の進展、そして諸科学との学際的な研究を総合することによって長足の進歩を遂げている。本書は2005年に出た旧版に、筆者を中心としたその後の新たなマヤ研究の果実を織り込んだもので、猪俣 健アリゾナ大学教授とともに05年から行ったグアテマラのセイバル遺跡調査で、マヤ文明の起源が従来学説より古く紀元前1000年頃に遡ることなど、その後の新たな研究成果が付け加えられている。
マヤ文明はインカ文明とともに、世界の4大文明とは異なり、大河の辺での大規模灌漑農業、実用金属器、家畜を持たない石器の都市文明である。数の知識、天文や精緻な暦、マヤ文字などの驚異的な水準の知識を有していただけでなく、メソアメリカの過酷な熱帯雨林の生態環境を利用した農業などの卓越した知識を有していたが、都市人口の増大によって農業が微妙なバランスが取れていた環境の中で持続性を失い、やがて文明の衰退につながったことが立証されており、著者はマヤ研究が現代地球社会の諸問題の解決の糸口にもなると熱く説いている。
(京都大学学術出版会2013年3月 361頁 2000円+税)