連載エッセイ278:ピーター藤尾「チリの風」その18 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ278:ピーター藤尾「チリの風」その18


連載エッセイ 278

「チリの風」その18

執筆者:ピーター藤尾(在チリ・サンティアゴ)

「2023年8月28日ー9月3日」

「政治」
1)ボリッチ動向

軍事革命から50年が経ちました。その記念日まであと少しになったので、もう毎日それに関連したことが報道されます。ボリッチは、その軍事政権時に行方不明になった1000名以上の人を捜そうとする運動を始めました。もちろん右翼の政党はそれに参加しませんが。共産党がこの50周年記念にピノチェットを批判し、アジェンデを讃える行事をもっとすべきだとクレームしていますから、それに従ってこの行方不明者捜索案が出たのでしょうか?逆に最右翼の共和党はアジェンデ政権時にも殺人が多く実行されており、ピノチェット批判だけの50周年記念は間違いだとしました。

その頃に殺された有名な歌手のビクトル・ハラに関し、それに関連したとされる元軍人が20年ほどの懲役を命じられました。しかし彼は刑務所に行く前に自殺しました。彼は85歳でした。共産党の党首ギジェルモ・テイジェルが死亡しました。その葬式にボリッチも参加しています。共産党のシンボルとして長い期間、活躍しましたが、もちろん軍事政権下では命が狙われたでしょう。逆に、ピノチェット暗殺事件(1986年)は彼もそれに何らかの形で参加していたでしょう。

それから前大統領のピニェラがモネダ宮殿を訪ね、ボリッチと面談しました。先にパラグアイに行った時、同行しましたが、どうして右翼のピニェラをそれほど信頼して相談するのでしょう。野党の力を借りるためピニェラの影響力を利用しているのでしょうか。
2)家屋省の不正問題

新左翼の議員が関係している「民主主義は生きている」と呼ばれる組織を監査局が調べていますが、汚職の匂いがするようです。そこで議会でその大臣モンテスの辞任を要求する声が大きくなってきました。不正の例として、政府の職員をしながら、その組織のメンバーになり、両方から給料をもらっていた人が多いとか。

「経済」
1)銅価格と為替

1ポンド3.86ドルと先週より少し上がりました。良かった。為替は1ドル854ペソとそれほど変わりません。

2)経済成長率

中銀が発表するイマセック(経済活動月例指数)は7月、予想を超えてプラス1.8%でした。久しぶりの高い数字。これが継続するか、8月からまた落ち込むか注目です。専門家は、今年1年としてはマイナスにもプラスにもならない前年と同じ数字が見込まれるとか。

「一般」
1)教員スト

火曜日に無期限一斉ストに入りましたが、金曜日にそれが終わりました。教員組合はストは止めるが、政府が我々に抱えている過去の未払いの額を速やかに支払っていただきたいとしました。それならなぜストに入ったのと聞きたいですが。もちろん、長期ストに入れば生徒の扱い、学力などに大きな影響が出るのは明白で、そうなれば教育大臣(共産党)に批判が向けられます。従って、政府に教員組合は怒っていると見せて、責任を政府に回し、ストを止めて、学校教育の正常化を図ったのでしょうね。

2)水害 

大雨はやみましたが、水害になった地区の復興は遅れています。床上浸水をした地区では家の中の清掃が大変な作業で、政府から援助金が出始めたようですがそれだけでは清掃が終わらないようです。先週、この問題でジャガイモの値段が上がったと書きましたが、価格の上昇例として25キロ入りの袋は現在は18326ペソ、2年前の同じ時期は7746ペソと書かれました。

3)コロナ問題

厚生省はコロナ問題は一応おさまったとしてマスク使用などの義務を外すことにしました。このまま終焉するか、もう一度復活するか? コロナ問題でサンティアゴは2度外出禁止令が出ました。その内の1回は4か月続きました。週に2回、買い物に2時間出る以外、一歩も外に出られません。その時は警察の許可書を携帯に入れてスーパーマーケットに入る時、係員に見せます。まるで人生が終わったのかと思ったほど厳しい時期でした。窓の外も見ても、車も通行人もほとんどいませんでした。今はマスクもなくとこでも行けるなんて…元に戻りました。良かったね。          以    上
「2023年9月4日ー9月10日」

「政治」
1)ボリッチ動向

もう9月11日の記念日関連の動きが彼の頭の中にあふれているようです。民主化してからのすべての大統領と面談し(死亡したエルウィンを除いて)その日のモネダ宮殿で行われる記念式典をどの様に実施できるか話し合っています。野党側のチレ・バモスとも面談しましたが、彼らはその式典に参加しないと決めました。われらのリーダーのアジェンデをピノチェットの軍事革命が殺したとする共産党式の考えでは、両者が同席する可能性は無いですね。それを新しいチリを作るため与野党が協調すると言うのが理想なのですが。ボリッチは最近ピニェラに接近していますが、ピニェラ政権の時には彼を全く役に立たない大統領と批判していました。

今日の新聞に軍事革命記念日の歴史として、10,20,30,40周年の日の動きが掲載されました。10年記念日は1983年ですが、その前年の1982年に為替問題から経済危機になりました。そのため反政府運動が始まりました。82年に半年でペソの価値が対ドルで半減したので、輸入品の価格が2倍になりました。私は日本から商品を輸入して販売していましたが、価格が2倍になったので売り上げは急減し、毎日のように苦しんでいました。

つまりチリの正常化・安定化をどう果たしていくか、左派・右翼の話し合いが重要ですが、全く進展はありません。

「経済」
1)ラテンアメリカ経済成長率

国連機関のCEPALの発表では、ラテンアメリカ・カリブ各国の成長率予想で、すべての国がプラス成長するが、次の3か国はマイナス成長になるだろう。それはハイチ、アルゼンチン、それにチリです。アルゼンチンがひどいのは知っていたが、チリがそのランクに入るとは厳しいですね。

2)銅価格と為替

銅価格は1ポンド3.73ドルとかなり下がりました。そのため為替も1ドル889ペソと今年最高のペソ安が進んでいます。その厳しい情勢に加えてチリの銅生産が大きく落ち込んでいることがあります。7月の銅生産量は過去10年で最低だったらしい。特にコデルコが不調で1-7月で11%の減少とか。価格が下がり、生産量が落ちれば鉱山経営に大きな影響が出ますね。もちろんチリ政府にとっても。

3)物価上昇率IPC

8月のIPCは予想より低く0.1%でした。今年の1-8月合計は2.6%、過去12か月では5.3%です。その数字は2年ぶりの数字です。落ち着いてきました。

一時14%を越えていましたからね。

「一般」
1)犯罪

明日(9月11日)は軍事革命50周年記念日ですが、それに先立って今日からデモ隊の暴動事件が多く出ました。首都圏の中央部や墓地で暴力事件が起きました。今夜、モネダ宮殿の周りを黒い服を着た女性が取り巻いていました。明日はもっとひどくなるでしょう。道路が封鎖され通行が出来なくなり、日常生活に大きな影響が出そうです。

それから麻薬組織の大型グループに「アラグア鉄道」と言う組織がありますが、それが地方の裁判所・検察関係者に脅しをかけ始めたとか。14名に脅迫がかかった由。俺たちを有罪にしたらお前の命は無いぞとするのでしょうか。そのグループのメンバーで刑務所に入っている人間が、裁判官やその家族を攻撃するとコメントしているとか。さぁチリの警察・検察・裁判所はどんな反応をするのでしょう。

全く関係ないことですが、またサンティアゴの国立学園で事件がありました。白スーツを着たグループが学校の建物に火炎爆弾などを投げつけ、かなりの火事になりました。負傷者も逮捕者も出ていません。しかし犯人グループの映像はビデオに映っています。そのグループの多くはそこで勉強している高校生でしょうが、どうして学校・警察・区役所などはちゃんとした対応が出来ないのかな?               以   上

「2023年9月11日ー9月17日」
「政治」
1)ボリッチ動向

9月11日の記念行事のためモネダ宮殿の前にテントが張られなんと3000人が集まりました。その集まりは意外なほど国際的でした。メキシコの大統領をはじめ、現職や元大統領など多くの政治家が集まり50周年に対するチリの姿勢を見守りました。現職ではメキシコのほか、コロンビア、ボリビア、ウルグアイそしてポルトガルでした。そのほかにも元首脳や各国の高官が参加しています。

その後ですが、キリスト教民主党DCの党首ウンドゥラガが「その日、DCは軍隊側に位置してアジェンデに敵対した」と自己批判しました。もちろん党内で大騒ぎでしょうね。

いつまでも左右の対立を続けるなとする批判に関し、共産党の議員が軍事政権に殺された私たちの仲間は自己批判せよとするのかと反論しました。しかしお互いに批判しあうと言う姿勢を続けることがチリの安定を妨げると言うことを分かってほしいです。一般市民が極右と極左を認めなければよいわけですが。

その後は、彼はお祭り気分で10月にチリで行われるラテンアメリカオリンピックの選手村完成式に行きました。もちろんその大会が終われば、そのマンションは売りに出るわけで政府は低価格でそれを庶民に渡します。

ところで彼の両親が住むプンタ・アレナスで問題が起きました。誰かがその両親を脅すパンフレットを家の前にまきました。それがボリッチを嫌うのか、彼の父親が過去に起こした問題から来るのか分かりませんが。悲しいニュースですね。

2)新憲法委員会

第2回の委員会も終了に近づいています。新憲法案作成の投票が始まっていますが、右翼の中で極右の共和党とそれ以外のチレバモスが対立しました。共和党案をチレバモスが拒否しました。左翼も分裂気味ですが、右翼も大変です。さぁどんな新憲法が作成され国民に提示されるのでしょう。なんだかその新憲法草案が出る前に否決が決まりそうですが。

今週、左右の大統領だったバチェレットとピニェラが今のままではまた国民に否認される、それを防ぐためには新憲法草案は国民に認められる内容にするべきだと訴えました。

素人の私は、ピノチェットの作った現行憲法のどこをどう変えるのかはっきりさせれば国民がそれを承認・否決する決断がしやすいと思いますが、どうでしょう。

「経済」
1)銅価格と為替

1ポンド当たり3.80ドルと少し良くなりました。しかし1ドルは886ペソとペソ安が続いています。

2)経営状況

今年は大企業の60%が予想より経営状況が悪いと考えているようです。厳しい状況ですね。ガソリン価格が上昇しました。これからもそれが継続するかもしれないとか。中銀の公定歩合を更に引き下げて経済活動を活発にする必要があると言われます。

「一般」
1)社会騒乱

9・11には再度社会騒乱が起きると考えましたが、意外でした、それほどではなかったです。逮捕者は108名でした。先日、高校で放火事件がありましたが、今週もその近くの道路で白服を着たグループがバスを止め、それにモロトフ爆弾で攻撃し、2台が全焼しました。2019年から未成年で火炎爆弾を投げて逮捕され有罪になった29名の記事が出ましたが、周りに影響されると言うのが明白です。

先週書いた麻薬組織のアラグア鉄道が判事などを脅迫した事件で、確かに検察から彼らに裁判の時に証人になった人の書類が渡されていたことが明らかになりました。その組織は南米のほとんどの国で活動しているとか。どこまで行くのかな?南部地区のマプチェの問題は毎週同じで、今週もグループが家屋に放火し車とも全焼しました。中にいた夫婦は負傷して病院に運び込まれました。そこにマプチェのパンフレットが置かれていました。

2)お祭り

9月は11日の軍事革命記念日が終わると18日の建国記念日に話題が移ります。オヒギンス公園の会場の開会式が行われ、そこで大統領はクエッカを踊るのですがボリッチは足のけがをしたと遠慮しました。昨年は下手な踊りを見せたのですが・・・

しかしこの何年間かコロナ問題で、お祭り騒ぎは抑えられていましたから、通常に戻ると言うのはうれしいことです。月・火曜日が祝日で4連休ですが、52万台と言われる多くの車が首都圏から郊外に出ていくとか。もちろん、飲酒運転などで多くの交通事故が起こります。そのお祭りの日に雨の予想がありますが、どうなるかな?日曜日は小雨でした。それでも雨の上がった夜にはオヒギンス公園は満員の客でした。今年は雨が多いと言われますが、この数年極端な乾燥状態が続き、大きな問題を出しました。今年は大雨で水害続出と言われますが、10年・20年前の水量と同じで今年が異常に雨が降ると言うのではなく、元に戻ったと言うことらしい。今週も南部で大雨になり3つの州で水害になっています。なんでも1万人以上が自宅から出られない状況とか。

土砂崩れ

これが最近の大きな話題です。バルパライソ州のコンコン地区で大きな土砂崩れが起き4つのマンションががけ下に落ち込みそうです。200家族ほどがそこに住めなくなり、家財を運び出しています。またいつか戻ってこられるか分からず、大金を払って購入したマンションが無価値になれば将来どうなるでしょう。そんな危険なところにビルを建てた会社、それを認めた州・市の責任はどうなるのでしょう。保険会社は払わないでしょうね。

以上

「2023年9月18日ー9月24日」

「政治)
1)ボリッチ動向

18 日 18の建国記念日はモネダ宮殿から彼はオープンカーに乗ってカトリックの大聖堂へ。道端にそれほど多くの市民が彼を見守っていませんでした。大司教がお祝いのミサで「国の統一を図り、軍事政権下で行方不明になった人の消息を調べ明らかにしてほしい」と要請しました。

19日  軍隊記念の日です。陸空海そして警察の4軍がパレードをし、ボリッチがそれを見守りました。4時間も続きました。政府で治安を守り切れないと軍隊が街角に立って国民を見守る必要がありますが、そうなれば軍事政権に逆戻りですね。

20日  ニューヨークに飛んで国連の総会に出席しました。自然保護のアピールをしました。その他にも軍事革命50周年の話もして、アメリカ政府のチリへの干渉があったこともコメントし、ニクソンの名前を出しました。またアメリカ政府のキューバやベネスエラへの経済制裁を批判しました。それからウクライナの大統領ゼレンスキーと面談しました。最後にワシントンに行き、そこで軍事政権に殺された元外相レテリエルの墓参りをしました。
2)新憲法委員会

最後の段階に近づいて、投票が始まりましたが、最右翼の共和党が政府を厳しく批判しています。この委員会の作る新憲法草案を国民に承認させる努力をしていないと言うわけです。妊娠中絶の件に関して新聞にどれが自由なのか権利なのかはっきりさせてほしいと書かれました。

3)ピニェラのコメント

アルゼンチンを訪問中のピニェラは4年前の社会騒乱に関し、まるで革命がおこったと感じさせられたほどの苦しみだったとしました。暴力グループは教会・学校・病院・商店・記念碑と目の前にあるものを壊し続けたからです。それは反右翼の左翼グループでした。ピノチェットがその時、大統領なら軍隊を出して反対勢力を力で抑えたのでしょうが。

「経済」
1)銅価格と為替

銅価格は3.71ドルと下がり、厳しい状況です。そのため為替は1ドル882ペソになりペソ安が進んでいます。

2)チリ経済の動き

世界の経済自由度というランキングの発表がありました。チリは今回は24位から30位に落ち込み今までラテンアメリカのトップだったのに、コスタリカに越されました。 ただ南米の中ではまだトップです。10年前は世界7位まで上がっていたのですが。今年はシンガポールが首位でしたね。チリの国営産業では常にコデルコ銅公社が首位でしたが、今年の上半期は、国立銀行とエナップ石油会社に追い越されました。コデルコは銅価格の下落と生産量の落ち込みでは無理もないですね。さぁ今年の後半はどうなるかな。あまり変化は無いようですね。

失業率

今年になって会社の都合でクビになったのは30万人を超え、前年より16%も増えています。

家屋販売数

7月の新居の販売は前年対比10.3%の上昇とか。少しは良くなっているのですね。

「一般」
1)建国記念のお祭り

首都圏で一番大きな会場はオヒギンス公園ですが、そこのフォンダ(屋台)のオーナーが今年は昨年の2倍の利益が出たとニコニコ顔。昨年もお祭りはありましたが、今年はコロナ問題が完全に終わり、集会をコントロールするような規制は全くなかったです。

新聞にチリ社会の正常化が戻ったとされました。良かったね。

2)犯罪行為

アルゼンチンから肉を持ち込むトラックが襲われました。グループが銃で運転手を抑え、後ろの扉を開けて中の製品を盗み出すと言う手段です。それから南部のアラウカニア州でマプチェの犯罪グループ関連で11名が逮捕されました。そのうち2名は警官でした。(一人は現職、もう一人は退職警官)彼らは情報をマプチェに渡していたのでしょうね。先日、同グループが家屋に放火し、夫婦を銃撃した事件が起きましたが、今年になってその種の凶悪犯罪は三日に1件と頻繁に起きています。警察・軍隊が立ち向かっているわけですが、ひどい状況がおさまる様子はありません。ベネスエラから来た麻薬組織のアラグア鉄道が検察官を脅し、彼らに関する裁判で証人になった人の情報を流した件が問題になっています。彼らは裁判に力で介入しているわけですから問題の深刻さは当然ですね。彼等のメンバーは40名以上がチリで刑務所に入っています。同グループのリーダーはベネスエラの刑務所から脱出しペルーかチリにいると言われます。  以   上