ペルー、ブラジルの料理界は今大きな変容を遂げている。これまでの伝統的な食材と調理方法から熱帯果実やアマゾンの食材や西欧・日本料理などの取り入れを辞さない意欲的な料理人が、エスニック料理というジャンルを超えこれまでになかった新しい料理、これまでにない斬新なレストランを世界に展開しているのである。
登場する料理人とそのレストランは、ペルーで大統領並みの有名人といわれ、ペルー料理を世界に認めさせた先駆者 Gaston Acurio の “Astrid y Gaston” をはじめとして、アマゾンの食遺産に光りを当てる Pedro Miguel Schiaffino の “Malabar”、ガストンに続いてペルー料理を世界にアピールする Virgilio Martínez の “Central” を紹介し、さらにペルー料理の代表的前菜であるセビーチェ(魚介のマリネー)に様々な工夫をする現代ペルー料理店として “Huanchaco”、北部都市チクラヨからリマに進出してきた “Fiesta”、アルゼンチン人オーナーの庶民的な店 “Canta Rana”、ペルーで1970 年代に初めて本格的な寿司を創った小西紀郎の “Toshiro’s”、北部の都市ピウラの庶民的な家族経営の名残を感じさせる “Paisana”、あくまでペルー伝統料理を基盤に置くアフリカ系女性が始めた “El Rincón que no Conoces”、第二の都市アンデス麓のアレキパ料理の “La Nueva Palomino” から屋台料理である牛の心臓の串焼きアンティクーチョや豚の皮のフライ、豊富な果実ジューススタンドに至るまで、ペルーの美食を紹介している。
一方、ブラジル料理については、アマゾンの食材を積極的に使って、南米料理ブームを興した Alex Atala の “D.O.M.” を筆頭に、フェジョアーダやムケカ、マンジョカを使った料理を洗練したアレンジで提案するブラジル女性 Helena Rizzo とスペイン人である Daniel Redondo 夫妻の “Maní”、サンパウロ州の田舎料理を自称する Jefferson Rueda の “Attimo”、サンパウロ郊外でブラジル北東部料理を出す Rodrigo Oliveila の “Mocotó” をA4 判で71 頁にわたって沢山のカラーによって紹介している。加えてスペインのバルセロナ “PAKTA” とマドリードにある “Nikkei225” という新感覚のペルーニッケイ料理をも紹介し、さらに巻末に登場した料理写真のうち 37 皿のレシピをも付けてあるという、さすが料理本・料理店等の月刊誌や専門解説書を出している出版社ならではの充実した内容になっている。
ペルー、ブラジルから世界に発信されている南米ガストロミーの現在の料理、それを担う料理人とその店が臨場感をもって姿を見せ、美味いものに関心ある読者の食欲をそそる。
〔桜井 敏浩〕
(木村 真季編 柴田書店 2013 年9 月 177 頁 3,000 円+税 ISBN978-4-388-80821-2 )
〔『ラテンアメリカ時報』2013/14年冬号 No.1405〕