【季刊誌サンプル】ラテンアメリカにおけるスタートアップ -浜口 伸明(神戸大学教授) - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】ラテンアメリカにおけるスタートアップ -浜口 伸明(神戸大学教授)


【季刊誌サンプル】ラテンアメリカにおけるスタートアップ

浜口 伸明(神戸大学教授)

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2023年秋号(No.1444)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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ラテンアメリカにおけるスタートアップ -浜口 伸明(神戸大学教授)

ラテンアメリカにおけるベンチャー投資
資源制約、地球気候変動、人口動態、健康、食糧、国際紛争など、現代社会が抱える多くの難問に対して、既成概念に捉われず、むしろそれを覆そうとするスタートアップ企業に注目が集まっている。スタートアップ企業が他の設立間もない中小企業と異なる特徴は、新しい技術やビジネスモデルを採用し、顧客に新しい価値をもたらす存在であるというところにある。スタートアップが活発な社会には、機会の顕在化、起業家人材、リスクをとる投資家という3つの要因がかかわっている。

ラテンアメリカ・カリブ地域においてベンチャーキャピタル(VC)が行った投資は2021年に対前年比288%増加し、同地域は世界で最もVC投資が成長した地域であった(Rudolph et al. 2023)。成長したスタートアップの新規株式上場(IPO)も活発化している。時価総額が10億ドルを超えるスタートアップは「ユニコーン」1と呼ばれるが、2021年はこのクラスのスタートアップが行った大規模な資金調達件数が増えた。パンデミックがオンラインサービスの需要を拡大し、ラテンアメリカにおけるスタートアップ成長を押し上げたとされている。

Rudolph et al.(2023)によると、ラテンアメリカにおけるVC資金調達の90%が海外VCからである。この海外VC資金の約70%はビッグフォーと呼ばれるソフトバンク、タイガー・グローバル(米)、DST(米)、リビット・キャピタル(米)から提供されている。ソフトバンクはラテンアメリカにおけるVC投資の最大の投資家である。

PitchBookのデータ2によると、スタートアップが急成長するレイター段階を狙って大規模な投資を行う海外VCと補完的に事業化から収益基盤確立までのアーリー段階の投資を担うラテンアメリカの国内VCの動きも活発である。Rudolph et al.(2023)は、ラテンアメリカにおいて経営者としてスタートアップのエグジットを果たして利益を得た経営者が投資家として後輩スタートアップに投資する「成功のリサイクル」が起こっていると指摘している。シリコンバレーで一般的なこのモデルは、ローカルなスタートアップ・エコシステムの要諦である。彼らは後に続くスタートアップにとって重要なロールモデルでもある。

このほかに事業会社がファンドを組成してスタートアップに投資を行うコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)3の成長も期待されている。CVCは投資のリターンよりも、本業と関連のある技術に投資し、事業化成功後に技術提携や買収によって技術を獲得し、本業の成長につなげることにウエイトを置いている(加藤 2022)。

ラテンアメリカにおけるスタートアップの機会

このようにラテンアメリカにおいてスタートアップは活況を見せているが、スタートアップが活躍する機会について、「ラテンアメリカ各国における社会課題そのものがスタートアップのビジネスモデルの対象」であり、また社会課題が共通で、言語の同一性も高いラテンアメリカは「ある国で成功したビジネスモデルを横展開という形でスケールアップしやすい」と指摘されている(竹下 2019)。Amorós et al.(2021)の