フランスの近代地理学者、アナキスト思想家のルクリュ(1830~1905年)は米国に渡り1853年以降ヌエバ・グラナダ共和国(現在のコロンビア)に渡って入植を試みたがうまくゆかず1857年に帰国、その35年後に本書を含む『新世界地理-地球と人間』全19巻を執筆している。フランスはじめ欧州、ロシア、アジア、中近東、アフリカ、インド太平洋、北アメリカ、メキシコ・中米・西インド諸島、本書の南米アンデス地域、南米アマゾン・ラプラタ地域を網羅した大著で、同じ訳者によって古今書院創立100周年記念事業として逐次刊行されている意義あるシリーズの一冊。
第1章は南米総説から始まり位置と輪郭、発見史、地勢、気候と動植物、住民について解説し、第2~8章で副題の地域・国々について詳細に解説している。地理には時間軸、歴史の観点が必要と各章で大陸の輪郭、地質や地形、動植物相、経済活動、人口分布などの項目を立てて述べているが、その先見性ある記述は130年前の古書とは思えぬほど的確で今読んでも多くの知見を得ることができる。訳者は、ルクリュが世界は既知ではないが一つであり、それゆえに人類は連帯すべきであると言いたかったのだろう、現在の問題はつまるところ世界各地の人間活動をどう管理運営するかの問題だとすれば、地理の観点からの洞察は必須であろうと指摘している。
〔桜井 敏浩〕
(柴田 匡平訳 古今書院 2023年6月 918頁 45,000円+税 ISBN978-4-7722-9017-3)
〔『ラテンアメリカ時報』2023年秋号(No.1444)より〕