『取るに足らないものたちの民族誌 -チリにおける開発支援をめぐる人類学』 内藤 順子 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『取るに足らないものたちの民族誌 -チリにおける開発支援をめぐる人類学』 内藤 順子 


『取るに足らないものたちの民族誌 -チリにおける開発支援をめぐる人類学』 内藤 順子

大学院生時にチリでのODAの医療協力プロジェクトに参画した著者は、その後文化人類学研究の道に入った。第Ⅰ部では2つの貧困地区の支援現場では支援者・専門家が強者である一方、「受益者=被支援者」は「取るに足らないものたち」でその弱者がいかに世界をみているのかを描き、第Ⅱ部では障害者をもつ子どもたちへの医療支援現場での経験、プロジェクトの過程で目の当たりにした文化摩擦に焦点を当てながら「強者の論理」を紐解く。とかく派遣された専門家等が「日本こそが移転すべき高度な技術と知識を持っているのに途上国側が何をいうか」という強者の姿勢で臨む者がいたが、各種の専門家が立案した「日本支援スキーム」が結局チリの実情に応えられなかったことがあって「日本から学ぶことは何もない」との印象を与えたことは、日本のリハビリテーション医療が遅れているからではなく、貧困の度合いや公的環境が大きく異なる「チリの現実に役立つものではない」からという指摘は当を得ているように思われる。
チリのスラムに派遣された、開発支援の現場では医療分野でもない文系の女性であり属性からして取るに足らないものであった人類学者の著者の視点から見た、もがきと葛藤の記録でありチリにおけるODA支援をめぐる民族誌の試みである。

 〔桜井 敏浩〕

(春風社 2023年2月 282頁 3,800円+税 ISBN 978-4-86110-825-9)
〔『ラテンアメリカ時報』2023年秋号(No.1444)より〕