近年「国際人権法」が法的進展を見せ、1951年に発足した米州における唯一の汎米国際機関で35か国が加盟しているOASの憲章に人権擁護条項が原則の一つとして挿入されている。当初は構成国の共通認識とは必ずしも言えなかったが、米州人権委員会が発足して米州人権条約が成立、それが米州人権裁判所の設立につながった。権威主義的な政府が増え人権保護の流れが一時期は途絶えたものの、その後多くの国で民主政府が復活し、米州での人権制度は大きく進展している。
本書は米州人権制度における米州人権委員会・裁判所の中南米での人権保護の挑戦が米州諸国でどのような影響を及ぼしてきたかを追求したもので、米州人権制度の誕生と進展から、権威主義的な独裁政権から民主制への移行期における人権侵害とその救済をペルー、アルゼンチン、ブラジルの事例で述べ、米州人権委員会の挑戦とその影響を米州人権条約成立までとその後の委員会の創設、権限強化、予防措置とその実際を描き、人権侵害に対する友好的解決の有効性をニカラグアの先住民に繰り返されていた抑圧や軍事政権下のホンジュラスやアルゼンチンでの学生・市民の行方不明事件の事例をあげて解説、さらに南米におけるLGBTIの現状と委員会の活動にも言及している。また米州人権裁判所の挑戦とその影響についても、裁判管轄権、国内的救済措置の判断、裁判所判決の各国に課せられた判決遵守義務とその実際、先住民やLGBTIの権利などを解説し、最後に米州での人権NGOの挑戦とその影響にも言及している。
米州での人権制度のモデルがアジアでの人権設計に何らかのヒントを与えてくれると考え発表してきた論文をまとめた著者は、現在文教大学国際学部教授。
〔桜井 敏浩〕
(北樹出版 2021年2月 463頁 7,000円+税 ISBN978-4-7793-0643-3)
〔『ラテンアメリカ時報』2023年秋号(No.1444)より〕